(2)記憶の残響
放課後、いつものように
由良は図書室へ向かった。
理永は一人で中庭のベンチに腰を下ろしていた。
背中に触れる木の冷たさが、やけにくっきりと感じられる。
風が、やわらかい。
若葉が擦れ合う音が、遠くで揺れている。
それでも、胸の奥のざわつきは消えない。
指先が、落ち着かない。
無意識に、手のひらをこすっていた。
今朝の夢。
思い出せない。
目が覚めたときは、確かに何か残っていたはずなのに。
時間が経つほど、形だけが崩れていく。
けれど、何かを見たはずだ。
強く、胸に残るものを。
目を閉じる。
暗闇の奥に、ぼんやりと影が浮かぶ。
誰かの背中?
輪郭が、定まらない。
それとも、ただ遠かっただけ?
近いのに、遠い。
呼び止めなければいけない気がするのに、声が出ない。
それから――
手。
自分の、手のひら。
何かを握っていたような気がする。
重さはない。温度もない。
ただ、色だけがあった。
「あかいろ、かな。」
言葉にした瞬間、胸の奥がひりつく。
そこまで思い出した瞬間、心臓が強く跳ねた。
理永は目を開ける。
現実の光が、まぶしい。
視界がわずかに揺れる。
「……違う」
何が違うのか、自分でも分からない。
夢のはずだ。
ただの、夢。なのに。
あのとき、自分は何かを“しなければ”と思っていた。
強く。
切実に。
止めなければ、と。
何を?誰を?
問いは、霧の中に沈む。
代わりに残るのは、胸の奥の圧迫感。
喉の奥が、少し乾く。
息を吸い込むと、痛みがわずかに広がる。
その痛みが、なぜか切実だった。
まるで――
誰かの想いを、自分が引き受けてしまったみたいに。
理永は、自分の手のひらを見つめる。
何もついていない。
それでも、色が残っている気がする。
風は穏やかだ。
遠くで笑い声がする。
中庭には、いつもと同じ時間が流れている。
それなのに。
胸の奥だけが、
静かに、重く沈んでいった。




