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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
32章|夜のひびき
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(2)夢の入口

『 音がない。


いや、あるのかもしれない。

ただ遠すぎて、届かない。


世界は白に近い灰色でできていた。

輪郭は曖昧で、空も地面も境目がない。


その中で。


温度だけが、はっきりしている。


あたたかい。


誰かの手を握っている。


細い指。

柔らかい感触。

肩が触れ、頬が近づく。


息が、混じる。


言葉は聞こえないのに、

笑っていることだけは分かる。


胸の奥が満たされている。


――幸せだ。


そう、確かに思っている。


けれど。


視界が揺れた。


手の感触が遠のく。


握っていたはずの温度が、すり抜ける。


背中。


誰かの背中が、前を歩いている。


追いかけなければならないのに、足が重い。


声を出そうとしても、音にならない。


距離が縮まらない。


胸の奥が、抉られる。


痛い。


理由の分からない喪失。


振り向いてほしい。


行かないでほしい。


そう願った瞬間、


視界の端に、横顔が映る。


知っているはずの輪郭。


けれど表情は見えない。


ただ静かで、

感情を閉じ込めた横顔。


次の瞬間。


口元に、色があった。


世界がほとんど白黒なのに、


そこだけが、濃い。


あか。


鮮やかで、現実よりも濃い。


何かを言おうとしたのか、

それとも――


分からない。


ただ、その色が焼きつく。


胸の奥が、爆ぜる。

衝動。


理由はない

手を伸ばす。


止めなければ、と。


何かを、放った感覚。


光ではない。

音でもない。


ただ、強い意思だけが弾けた。


そして。


静寂。


世界が落ちる。


視界が下がる。



手のひらに、色が残っている。

さっき見たものと、同じ濃さ。



手のひらも、指先も。


鮮やかで、濃い。


さっき見た色と、同じ。


そこで初めて、


冷たい感覚が走った。


これは、何だ。


問いかける前に、


世界が割れた。 』




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