(1)大規模自然災害
主視点:眷属たち
最初に届いたのは、報告ではなかった。
数値だった。
震度、風速、降水量、海面上昇
どれも単体では、過去にも例のあるものだ。
だが、それらは同時に起きていた。
大陸の西で、地殻が裂ける。
南の海では、季節外れの嵐が連なり、北では、氷が解ける速度が予測を超えた。
「重なりすぎている」
誰かが、ぽつりと呟いた
それは意見ではなく、確認だった。
災害は本来なら、ばらけて起きる。
偶然という名の緩衝が、世界には用意されている。
だが今は違う…
起きるべきでない順番で、起きている。
地上の映像が、次々と切り替わる。
逃げ惑う人々
崩れる街
祈る時間すら与えられない夜
眷属たちは、黙ってそれを見ていた。
誰も目を逸らさない
逸らす資格がないと、知っているからだ。
「……止められるか?」
問いは、空間に落ちた
返事は、すぐには来ない。
計算はすでに走っている。
介入すれば、被害は抑えられる。
だが、それは別の場所で、別の歪みを生む。
世界は、ひとつの天秤では測れない段階に入っていた。
「抑制ラインを引くしかない」
誰かが言った。
それが何を意味するか、全員が理解している。
これは完全な救済ではないと
“これ以上は増やさない”という選択。
地上の死者数が、刻々と更新されていく。
数字は跳ね、揺れ、やがて――
ひとつの境界に近づいた。
一億。
その数が示すのは、限界だった。
「……ここで止める」
決断は、静かに下された。
英雄的な叫びも、神託もない。
ただ、
これ以上は、世界がもたない。
それだけの理由。
眷属たちは、それぞれの持ち場へと意識を散らす。
海を抑える者
大地を縫い止める者
風を逸らす者
誰も、完全には止められない。
ただ、遅らせるだけ。
その事実が、
この会議の重さだった。
画面の端で、
死者数の表示が、ゆっくりと止まる。
一億。
その数字を見つめながら、
誰も、安堵しなかった。
止めたのではない。
止めてしまったのだと、
全員が分かっていたから。




