(4)星の下
外に出ると、空気は冷たかった。
吐く息が、白くほどける。
自然に、手をつなぐ。
指先の温度が、さっきよりもはっきりしている。
並木道を抜けた先、視界がひらける。
夜空。
星が、凍るみたいに澄んでいる。
「……綺麗」
理永が見上げる。
由良も、同じ方向を見る。
肩が、そっと触れる。
冷たい夜の中で、手のぬくもりだけが現実みたいだった。
「理永」
「なに?」
「未来も、こうやって並んで見られたらいいな」
大げさじゃない声。
けれど、冗談でもない。
理永は、少しだけ指に力をこめる。
「うん。ずっと」
その言葉は、夜に溶けていく。
星が瞬く。
黒い空の奥で、見えない何かが静かに巡っている。
遠くで、かすかな風が木々を揺らす。
由良の横顔は、星明かりに淡く照らされていた。
理永は、ふと思う。
この瞬間を、忘れたくない。
夜は深く、空は高い。
ふたりの上で、星は何も語らない。
けれど確かに、どこか遠くで
なにかが静かに動きはじめている。
それを、まだ誰も知らない。
ただ——
つないだ手だけが、確かだった。
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(視点:由良)
ただ——
つないだ手だけが、確かだった。
理永の指が、ほんの少しだけ強くなる。
由良は気づいていた。
寒さのせいじゃない。
さっきの言葉のせいだ。
未来。
ずっと。
強がらない声で頷いたくせに、
耳の先がわずかに赤い。
目が合いそうになると、すぐ空に逃げる。
……どうしてこんなにも、目が離せないのか。
胸の奥で、静かに笑う。
指先から伝わる緊張も、
隣に立つ呼吸の速さも、
全部、愛おしい。
「うん。ずっと」
あの返事は、照れ隠しじゃない。
きっと、本気だった。
だからこそ、由良も本気で願った。
この先も。
並んで、同じものを見ていられる未来を。
気づけば、守ることを前提に未来を考えていた。
声に出さなくても、自然にそう思っている。
星は遠く、夜は澄んでいる。
理永の横顔を、そっと見つめる。
そのとき——
ほんの一瞬だけ、
胸の奥に、かすかな不安がよぎる。
理由はない。
何かを失う予感でもない。
ただ、あまりにも綺麗すぎる夜に、
少しだけ、心の端に影がさす。
遠い星の輝きが、なぜか目に残った。
けれどそれは、
次の瞬間には消えていた。
理永が、また指に力をこめる。
由良は、その手を握り返す。
大丈夫だ、と言う代わりに。
未来は、まだ知らない。
けれどいまは——
このぬくもりを離さないと、静かに決める。
星は何も語らない。
ただ、ふたりの上で静かに瞬いている。
冬の夜。
恋は、確かな形を持った。
そしてその形は、
まだ名もない未来へと、 ゆっくりと歩きはじめていた。




