(3)告白
夕方。
窓の外は、ゆっくりと群青色に染まりはじめている。
白かった冬の光が、やわらかく沈んでいく。
帰る時間が近づいているのに、理永は立ち上がれなかった。
言わなきゃ。
今、言わなきゃ。
「あのね……」
声が震える。
それでも——
この震えごと、受け取ってほしいと思った。
胸の奥で、静かに何かが背中を押す。
「……由良」
「うん」
名前を呼ぶだけで、喉が震える。
それでも、逸らさない。
「私ね、由良といると……すごく幸せ」
言葉が、こぼれる。
胸の奥が、あたたかく、でも苦しい。
こんなふうに誰かを想うなんて
考えるより先に、心が選んだ声だった。
「初めてなの。こんな気持ち」
言えた…
暖炉の火が、ぱち、と小さく鳴る。
由良は何も遮らない。
急かさない。
ただ、まっすぐに理永を見る。
その視線に、逃げ場はない。
けれど、怖くもない。
「好き。……ちゃんと、好き」
逃げなかった。
伝えられた。
涙がにじみそうになるのを、ぐっとこらえる。
静かな部屋に、言葉だけが落ちる。
ほんの一瞬の沈黙。
それが永遠みたいに長く感じられて——
由良は、ふっと息を吐いた。
それは驚きよりも、安堵に近い。
「知ってる」
理永が目を見開く。
「理永、わかりやすいから」
少しだけ意地悪そうに笑って、
それから、真面目な顔になる。
「でもね。俺も、理永が好きだよ」
揺れない声。
熱に浮かされた響きじゃない。
ずっと前からそこにあったみたいな、落ち着いた温度。
胸の奥が、ほどける。
追いかけているだけだと思っていた。
でも、違った。
同じ場所に立っていたのだと、ようやくわかる。
由良が手を伸ばす。
「これからも、そばにいて」
その手を、理永は見つめる。
逃げない。
今度は、自分から。
そっと、指を重ねる。
温度が重なる。
鼓動が重なる。
離れない。
窓の外で、夜が完全に降りる。
部屋の片隅。
ローチェストの上に置かれた小さな宝石箱。
深い色の蓋は閉じられたまま。
その中で、黒い種がかすかに震える。
誰にも気づかれないほど、小さく。
まるで——
遠い記憶が、息をしたみたいに。
けれどその震えは、悲鳴ではない。
どこか、ほどける前触れのようだった。




