(1)冬の光、由良の家
(視点:理永)
由良の邸宅の窓から、淡い陽が差し込んでいる。
冬の午後。
暖炉の火が小さく揺れ、暖炉の前でミケが丸くなっている。
揺れる橙の光が、部屋にやわらかい影を落としていた。
理永はソファに座り、マグカップを両手で包む。
指先にじんわりとした温かさ。
「……落ち着くね、ここ」
「そうか? 良かった」
由良は向かいではなく、隣に座っている。
肩が、わずかに触れそうな距離。
それが、もう特別じゃないことが——
なぜか、毎回胸にくる。
(慣れた、はずなのに)
視線が合う。
逸らさない。
逃げない。
それだけで、心臓が少し速くなる。
壁際のローチェスト。
その上に、小さな宝石箱が置かれている。
深い色の蓋。装飾は控えめで、静かな存在感。
理永は、ただ何となく目を向ける。
「それ、新しい?」
「いや。ずっと持ってる」
由良はそれ以上、何も言わない。
ただ指先で、そっと蓋に触れる。
開けない。
見せない。
触れ方だけが、やさしい。
まるで——
誰にも触れさせたくないものみたいに。
(大切に仕舞われた、宝物みたいに)
マグカップのミルクティーが空になる。
「……おかわり、入れてくる」
由良は立ち上がる。
暖炉の火が一瞬、彼の横顔を照らす。
理永はその背中を見つめる。
(ずっと持ってる、か)
理由は分からない。
でも、胸の奥が、ほんの少しだけざわついた。
怖さじゃない。
懐かしさに似た、何か。
暖炉の火が、ぱちりと鳴る。
理永はカップを握り直した。
温もりは、ちゃんとここにある。




