(3)並ぶ温度
食事が終わると理永は、自然に立ち上がった。
「洗うね」
「じゃあ拭く」
決めたわけでもないのに、役割ができる。
蛇口をひねると、水の音が静かに流れた。
湯気の残るキッチン。 さっきまで鍋があった場所。
由良が隣に立つ。
近い。
肩が触れそうで、触れない距離。
皿を洗って渡す。 受け取る。 布巾で拭く。
その繰り返し。
時々、指先がかすめる。
「ごめん」
「ううん」
小さなやり取り。
でも、前みたいに胸が跳ね上がったりしない。
あたたかい。
ただ、あたたかい。
水滴を払う音。 布巾のやわらかい擦れる音。
ふと、由良が言う。
「こういうの、いいな」
「なにが?」
「並んでる感じ」
言葉がまっすぐで、少しだけ照れる。
理永は笑った。
「ちゃんと拭いて。水跡残るよ」
誤魔化すみたいに言うと、由良が小さく笑う。
ミケが足元を通り抜ける。
キッチンの灯りがやわらかく、二人の影を並べていた。
もう帰る時間、
玄関で靴を履くと、外の空気が少し冷えているのがわかる。
コートを手に取ろうとした瞬間。
「貸して」
自然な声。
由良が背後に立つ。
ふわりと肩に布がかかる。
背中越しに、ほんのり伝わる体温。
ボタンに指が触れる。
「寒いから」
それだけ。
けれど、心臓がゆっくりと鳴る。
振り向くと、距離が近い。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
視線が絡む。
でも、どちらも逸らさない。
扉を開けると、夜の空気が澄んでいる。
並木道の紅葉が街灯に照らされて、赤く揺れている。
落ち葉がかさり、と鳴る。
しばらく並んで歩く。
沈黙は重くない。
むしろ、心地いい。
ふと、指先が触れた。
どちらからともなく。
理永は、少しだけ勇気を出す。
そっと、指を絡める。
一瞬の静寂。
でも、離されない。
そのまま、自然に手が重なる。
温度が、伝わる。
夏みたいに熱くない。
でも、確かにある。
「冷たい?」
由良が小さく聞く。
「ううん」
理永は微笑む。
「ちょうどいい」
握る力が、ほんの少しだけ強くなる。
紅葉が風に舞う。
並んだ影が、地面に伸びる。
帰り道。
けれど、どこか始まりみたいな夜。
恋は、静かに深まっていく。
秋の体温が、
手のひらから、胸の奥へと伝わっていく。
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