(1)色づく時間
(視点:理永)
秋学期の時間割を前に、理永は小さく息をついた。
文学部・異種族人文学研究。
専門科目が増え、空き時間は思ったより少ない。
窓の外では、銀杏の葉がゆっくりと色づき始めている。
夏の強い光はやわらぎ、空気は澄み、少しだけ冷たい。
指先で時間割の紙をなぞる。
インクの匂いが、ひやりと鼻をかすめた。
(……会える時間、減るかも)
そう思った瞬間、自分でも驚く。
忙しくなることよりも、
先に浮かんだのは、そのことだった。
胸の奥が、ほんの少しだけ静かに疼く。
理永は首を振り、イヤホンを耳に差し込んだ。
気分転換、と自分に言い訳をする。
流れ出したのは、やわらかなピアノの旋律。
窓の外で、風に舞った落ち葉がひらりと揺れる。
音と光が重なり、世界が少し遠くなる。
その中で、ふと。
由良の横顔が浮かぶ。
夕暮れの光に縁取られた、あの穏やかな表情。
からかうようで、でもどこか優しい声。
胸が、静かにあたたまる。
夏の頃みたいな、焦るような鼓動じゃない。
じんわりと、奥から広がる温度。
(……また、考えてる)
無意識だったことに、今さら気づく。
会えない時間にまで、
自然に彼を思い出している自分。
それが嫌じゃない。
むしろ、少しだけ嬉しい。
理永はイヤホンを外し、もう一度時間割に視線を落とす。
忙しくなる。
でも、その合間に会えたら――
きっと、うれしい。
銀杏の葉が一枚、はらりと落ちた。
季節が進む。
恋も、ほんの少しだけ、色づいていく。




