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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
28章|あなたの知らない熱
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(2)

(視点:由良)


講義が終わる時間を、由良は知っている。


「昨日の参考文献、少し貸してもらっていい?」


昼間、さりげなくそう頼んでおいた。

あくまで学業の延長の顔で。


夕暮れ。

西日が校舎の壁をやわらかく染めるころ。


中庭のベンチに腰を下ろし、由良は文庫本を開いていた。

ページをめくる指先は静かだが、文字はほとんど目に入っていない。


風が吹く。

昼間よりもわずかに冷えた空気。

蝉の声も、まばらになってきている。


――足音。


視線を上げなくても分かる。


(来た)

それでも一拍置いてから、しおりを挟み、本を閉じた。


「待った?」


穏やかに微笑むように顔を上げる。


理永は、ほんの少しだけ呼吸を整えるように立っていた。

目が合うまでのわずかな間に、迷いと期待が揺れる。


――自覚した目だ。


昨日までとは違う。


由良は立ち上がる。

距離は、ほんの半歩近い。


「待ってないよ。ちょうど区切りがよかった」


軽く本を掲げて見せる。


「今日は、少し涼しいね」


並んで歩き出す。

肩が触れそうで触れない距離。


理永の指先が、無意識に揺れる。


その変化を見逃さない。


「……緊張してる?」


低く、からかうように。



理永が視線を逸らす。

頬にうっすらと色が差す。


ああ――


可愛い。


だが、それは言わない。


代わりに、少しだけ意地悪く距離を縮める。


「俺のせい?」


その一言で、

夏の終わりの空気が、ほんの少しだけ熱を帯びた。


——まだ、触れていないのに




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