星の閑話Ⅱ|待つ星
(ポルックス視点)
待つ、という行為を、
ポルックスはそれまで知らなかった。
星は巡るものだ。
離れても、必ず交わる。
双子であれば、なおさら。
だから――
カストルは弟が落ちるときも、恐れはなかった。
追えばいい。
そして、合流する。
それが当たり前だったから。
地上は、思っていたより温かい。
空気は重く、足元は確かで、星であった頃の軽さは、もうない。
それでもポルックスは、同じ場所に留まっていた。
カストルは、後を追ってくるはずだ。
自分よりも強く、迷いのない兄だから。
――少し遅れているだけ。
そう思いながら、
夜がひとつ、またひとつと過ぎていく。
遠くで、灯りが揺れている。
あの家だ。
少年と、猫がいる。
ルシアンは、空を見上げることが増えた。
占うためではなく、
ただ、何かを待つように。
フェリスは、彼の足元に座り、
同じ方向を見ている。
ポルックスは、その様子を
少し離れた場所から見ていた。
近づかない。
触れない。
ただ、いる。
不思議な感覚だった。
誰かに見られているのに、
裁かれていない。
測られていない。
ただ――
そこに在っていい、という空気。
「……遅いな」
思わず、そう呟いていた。
声に出した瞬間、
胸の奥が、わずかに軋む。
待つ時間が、
初めて「長い」と感じられた。
星だった頃、時間は距離と同じだった。
離れても、必ず戻るもの。
けれど今は違う。
戻らない可能性が、
ほんの僅か、影を落とす。
フェリスが、ふと顔を上げる。
カッパー色の瞳が、一瞬だけこちらを向いた。
見えているのか、いないのか――
判断がつかないほど、静かな視線。
それでもポルックスは、
なぜか安心した。
ここで待っていても、
壊れはしない。
少なくとも、
この夜のあいだは。
ポルックスは、再び空を見上げる。
星は、まだそこにある。
けれど、弟の光は見えない。
「……大丈夫だ」
誰に言うでもなく、
そう言い聞かせる。
信じている。
それだけは、嘘じゃない。
待つことが、
こんなにも重いと知る前に――
ポルックスは、ただ兄を信じていた。




