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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
28章|あなたの知らない熱
129/190

(1)

(視点:由良)


夕暮れ。日が沈み、蝉の声もまばらになった。少し冷え始めた空気に、由良は肩をすくめる。


足元をすり抜ける小さな影。三毛の毛並みが柔らかく光を反射する。

「ミケ、もう帰るのが早くなったね」

声をかけると、猫はにゃあと短く鳴き、床に丸くなった。

日常の小さな習慣。けれど、心は少し揺れている。


由良は、リビングのテーブルに置かれたグラスに目を向ける。

紅茶かアイスティーを作ろうか――そう迷う手が一瞬止まる。


(あの子は、今、何をして、何を思って、どんな顔をしているのだろう)


ふと、心に浮かぶのは、過去に出会った遠い思い出。

色や匂い、声まで今も思い出せる。

胸の奥が、ほのかに熱くなる。

無意識のうちに、理永のことと重ねてしまう自分がいる。


ミケがテーブルの脚にすり寄り、くすぐったいように足に触れる。

由良は小さく笑い、手を伸ばす。

(ああ……触れたい)


触れたい――その衝動が、心の奥でじわりと膨らむ。

まだ抑えられる、理性で押さえられる。けれど、確かに熱がある。


由良はゆっくりと手を下ろし、視線を遠くに泳がせる。



かつて焦がれた熱と、今目の前にある熱は違う。

それでも確かに、同じ温度を持っている。


——そして今のほうが、ずっと危うい。


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