(5)静かな確信
(視点:理永)
由良の手を振り払うことができなかった
理由は明白
好きだから...。
胸の奥がざわつきながらも、確かな感覚。
手首に触れた温もりが、ただそこにあるだけで、こんなにも落ち着く。
視線を少しだけ横に向けると
蜂蜜色の瞳が、まっすぐこちらを見ている。
ドキリと、胸が跳ねる
その蜂蜜色の瞳に、まるで何もかも見透かされているようで
理永は小さく息をついた。
ただ、隣にいるだけで、不安は少しだけ薄れていた
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(視点:由良)
夜。
部屋の明かりは、机のスタンドだけ。
川崎由良は椅子に座ったまま、何もしていなかった。
開いたままのノート。
進まないページ。
代わりに浮かぶのは、夕暮れの帰り道。
「……わざわざ言わなくていい」
拗ねた声。
視線を逸らしたまま、赤くなった頬。
そして――
「……由良」
呼び捨て。
静かな部屋で、自分の呼吸がやけに大きく聞こえる。
「理永さん」
いつもの呼び方。無意識に口に出してみる。
問題はない。
なのに。
あの瞬間。
くん、が抜けた。
ほんの小さな違い。それだけで、胸が静かに揺れる。
由良は目を閉じる。
理永の声を、もう一度なぞる。
『……由良』
あれは偶然ではない。
自覚していないだけだ。
胸の奥が、じんわり熱を帯びる。
由良は片手で目元を覆い、指の隙間から吐息を漏らす。
「……困ったな…」
小さく、幸せそうなため息。
困っているわけではない。
むしろ――確信している。
逃げない指先。
引かなかった視線。
あれは拒絶ではなかった。
――好き。
まだ言葉にはしていない。
けれど、もう揺れていない。
由良はゆっくりと手を下ろす。
蜂蜜色の瞳に、わずかな赤が差す。
「並んでいられれば、今は十分だ」
静かに独り言。
今はまだ、奪わない。縛らない。
けれど、隣は、譲らない。
スタンドの灯りが落ちる。
暗闇の中で、由良は目を閉じる。
理永の呼び声を、確かに覚えたまま。




