(4)並ぶ影
(視点:由良)
放課後の廊下。
理永は少し早足で歩く。
後ろから、足音。
一定の距離を保ったまま、由良がついていく。
追いかけているわけじゃない。
でも、離れない。
昇降口を出る。
夕方の光が長い影を作る。
ふと、影が重なる。
隣に並ぶ。
由良は歩幅を合わせる。
「急いでいますか」
「別に」
短い返事。声が少し硬い。
沈黙。
風が吹く。
「さっき」
由良が静かに言う。
「気にしていないなら、それでいいです」
理永は足を止める。
「……何が」
由良も止まる。
真正面ではない。
横並びのまま。
「必要なことだけです」
少し間。
「それ以上は、ありません」
理永の胸がきゅっと締まる。
それは説明? それとも――
「……わざわざ言わなくていい」
拗ねたような声になる。
由良がほんの少しだけ驚く。
「そうですか」
でも、その瞳はやわらぐ。
――ああ、そういうことか。
今、少しだけ理解する。
理永のざわめきの正体を。
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(視点:理永)
夕暮れの帰り道。
二人の影が、長く伸びる。
理永は前を向いたまま歩く。
(……なんで、来るかな)
隣にいるのに、落ち着かない。
(……わざわざ言いに来なくていいのに)
少し拗ねた口元。
由良は横目で理永を見る。
頬が、ほんのり赤い。
視線は合わない。
でも。
手は、ぎゅっと鞄の紐を握っている。
――ああ。
胸の奥で、静かに何かが繋がる。
由良は足を止める。
理永が一歩先に出る。
その瞬間。
そっと、手首に触れる。
強くない。
逃げられる程度の力。
でも、離さない。
理永の体がぴたりと止まる。
「……由良?」
呼び方が、少し揺れる。
そのとき、無意識に――
――由良
思わず出た呼び捨て。
自分でも気づいてない。
由良は微かに笑う。
ただ、静かに。
「逃げないでください」
声は穏やか。
でも迷いはない。
理永の心臓が跳ねる。
「逃げてないし……」
弱い否定。
由良は、ほんの少しだけ手を引く。
距離が、半歩縮まる。
「では、並んでください」
目が合う。
蜂蜜色の瞳が、まっすぐ理永を映す。
理永の胸のざわめきが、すっと形になる。
――気づいてる。
この人は、わかっている。
自分の揺れも。
自分の“好き”も。
なのに。
離さない。
理永は、小さく息を吐く。
「……離して」
言葉とは裏腹に、手は引かない。
由良の指先が、ほんの少しだけ強くなる。
「嫌です」
静かに、即答。
その瞬間。
理永の胸の中の色が、はっきりと染まる。
――好き。
確信は、もう揺れない。
由良はそれを見ている。
理永の瞳の変化。
逃げなくなった指先。
確信する。
(やはり、そうでしたか)
でも、口にはしない。
ただ。
並んで歩く。
手を繋いだまま。




