(7)色づく夜
門の前で、しばらく立ち尽くす。
玄関の灯りが消え、二階の窓に明かりが灯る。
――帰った。
それだけで、胸の奥が静かに満たされる。
無意識に、右手を見る。
さきほどまで、そこにあった温度。
握らなかった。
いや、握れなかった。
もう少し触れていたら、
きっと離したくなくなった。
「……焦る必要はない」
小さく息を吐く。
あの笑顔を、守りたい。
急がずに。
奪わずに。
並んで歩ける距離で、少しずつ。
窓のカーテンが、わずかに揺れる。
視線が合った気がして、ほんの少しだけ口元が緩む。
――愛しい。
その言葉を、まだ口には出さない。
静かな邸宅へと戻る。
広い家は、またひとり分の空気になる。
けれど今日は、不思議と寒くなかった。
―――――――――――――――――――
部屋の灯りを消して、ベッドに横になる。
けれど、目が冴えている。
窓の外から、遠くの虫の声が聞こえる。
(……寝なきゃ)
目を閉じる。
浮かぶのは、今日の夕方。
アイスティーの氷の音。
蜂蜜色の瞳。
近すぎた距離。
手は、繋がれなかった。
けれど。
門の前に立つ姿。
静かに見送る視線。
胸の奥が、じんわりと熱い。
(……なんでだろ)
手を胸の上に置く。
鼓動が少し早い。
怖くはない。
むしろ、心地いい。
由良の手の冷たさを思い出す。
ひやりとした感触。
それなのに、なぜか安心した。
「……ずるい」
小さく呟く。
優しくて、距離を守って、
急がなくて。
あんなふうに大切にされてしまったら。
好きにならないわけがない。
自分の思考に、はっとする。
(……え?)
布団を頭までかぶる。
顔が熱い。
暗闇の中で、目を閉じる。
ゆっくりでいい。
でもきっと、もう戻れない。
その予感を抱えたまま、
理永はなかなか眠れなかった。
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