(4)予定外の午後
講義終わりの大学構内、
レポート、提出期限もうすぐだ。
内容は「異種族との共存について」。
理永はノートを抱えながら言った。
「由良さん、レポートなんだけど……」
「はい」
「来週提出で。“異種族との共存”についてなんです」
由良の視線が一瞬だけ止まる。
けれどすぐに、いつもの穏やかな顔に戻る。
「図書館に行きますか?」
「はい、そのつもりでした」
いつも通りの流れ。
並んで歩くのも、もう自然だ。
けれど今日も、少しだけ意識してしまう。
図書館の自動ドアの前で足が止まった。
貼り紙。
《本日、設備点検のため臨時閉館》
「え……」
理永が小さく声を漏らす。
「そんなこと、あります?」
「珍しいですね」
静かな返事。
理永は少し困ったように笑う。
「どうしましょうか……」
カフェは騒がしい。
家に帰るにはまだ早い。
提出日は待ってくれない。
ほんの少しの沈黙。
由良が言う。
「よろしければ、うちに来ますか」
さらりと。
特別な誘いという顔をしないのが、ずるい。
理永は瞬きをする。
「……お邪魔じゃなければ」
「問題ありません」
即答。
あの邸宅を思い出す。
以前来たときは、ひとりで訪ねた。あのときより緊張は少ない。
でも――
今日は“勉強”とはいえ、
ふたりきり。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
理永がうなずく。
並んで歩き出す。
邸宅までの道、蝉の声がうるさい
並んで歩く、
肩や腕が触れ合う距離。
指先が触れた、と思った次の瞬間、
そっと手を包まれる。
由良の手は、ひやりと冷たかった。
屋敷までの道は、初めて来たときよりも、ずっと長く感じた。




