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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第26章|世界は色づく
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(2)はじまりの距離

映画館前。

いつも通りの私服。

(少しだけオシャレしてみたけど)


それだけで、今日は少しだけ見え方が違う。

(そんなに、変わらないはずなのに)


理永は胸の奥が落ち着かない。


「待ちました?」


「いえ、私も今来たところです」


いつもと同じ会話。


でも、“デート”という言葉が頭にあるだけで、 距離の感じ方が変わる。


並んで歩く。

肩が触れそうで触れない。

それだけで、意識してしまう。




「ポップコーン、どうしますか」


「……半分こ、します?」


自然に言えたはずなのに、 言ってから少しだけ恥ずかしくなる。


由良が理永を見る目が、ほんの少しやわらぐ。

「はい。半分こ、しましょう」


穏やかな返事。


それだけなのに、胸があたたかい。





上映中。

暗闇。

スクリーンの光が揺れる。


由良が、隣にいる。

(……近い。)


今までも何度も隣に座っていたのに、 今日は意識してしまう。


ふと、肘が触れた。


一瞬だけ息が止まる。


離れるかと思った。


けれど由良は動かない。


自然なまま。


理永も、そのままでいる。


ほんの少し触れているだけ。


でもそれが、やけに心地いい。


(これが、違いなんだ)


友達のときとは違う。


触れている時間が、意味を持つ。





映画が終わり、並木道を歩く。


外は夕方。

やわらかな光。


「楽しかったですね」


「はい」


目が合う。


それだけで少し照れる。


沈黙。


でも不安じゃない。


由良が静かに言う。


「理永」


名前を呼ばれるだけで、胸が揺れる。


「……はい」


「今日、来てよかったです」


飾らない言葉。

でも、きちんと伝えてくれる。


理永は小さくうなずく。


「私も、です」


少し歩く。


人通りが少なくなったところで、 由良の指先が、そっと触れる。


確認するような、控えめな触れ方。


理永は一瞬だけ迷う。


でも、そっとその指を包む。


強く握らない。

重ねるだけ。


由良の指が、わずかに応える。


それだけで十分だった。


特別な言葉はない。


宣言もない。


でも。


並んで歩く距離が、もう自然に近い。


友達の延長じゃない。


静かに、確かに、


始まっている。




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