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(3)代償
「理解したつもりになるな」
由良は立ち上がる。
距離を取る。
「俺は老いない。死なない。……人の血で生きる」
静かな声。
感情を押し殺した声音。
「お前とは、生きる時間が違う」
理永は黙って聞いている。
そのまっすぐな視線が、痛い。
「だから」
わずかに目を伏せる。
「ここで終わらせるのが正しい」
それが正解だ。
そう分かっている。
――なのに。
胸の奥で、微かな声がする。
(もし)
(同じ時間を生きられるなら)
振り払うように、由良は息を吐く。
そして、あえて残酷な選択肢を差し出す。
「それとも――」
視線を戻す。
赤が、わずかに滲む。
「理永も、吸血鬼になるか?」
静かな声。
甘くはない。
けれど、完全に冷たくもない。
「人間をやめる覚悟があるなら」
言いながら、自分が何を言っているのか分かっている。
そんなこと、望んでいない。
理永の時間を奪いたくない。
それでも。
ほんの一瞬だけ。
(それなら、離れなくて済む)
そんな弱さが、確かにあった。




