(2)境界
紅茶をひとくち飲む。
やわらかな香りが広がる。
(……おいしい)
思わず、ほっと息がこぼれた。
やっぱり。
由良くんとは、驚くほど気が合う。
好きな茶葉も、温度も、甘さも。
何も言わなくても、分かっている。
そのことが、嬉しくて。
少しだけ、怖い。
理永はカップを両手で包む。
――逃げない。
聞く覚悟を、ここで決め
顔を上げる。
「由良くん」
由良の瞳が、静かにこちらを見る。
揺れはない。
けれど、どこか遠い。
「私、人間だよね」
唐突な問い。
由良の指先が止まる。
一瞬だけ、空気が張り詰めた。
「……ああ」
低い声。
「お前は、人間だ」
確認するように、はっきりと。
理永は、うなずく。
「じゃあ」
息を吸う。
「由良くんは?」
沈黙。
長い、長い沈黙。
夕暮れの光が、ほとんど消えかけている。
影が深くなる。
由良は目を閉じた。
「俺は――」
静かな声。
「人間じゃない」
はっきりと。
言い訳も、冗談もない。
ただ事実として。
部屋の空気が、ひやりと変わる。
由良がゆっくりと目を開く。
その瞳の奥に、わずかな赤が滲む。
「俺は...」
「吸血鬼だ」
言葉が、落ちる。
理永は、瞬きを忘れた。
頭の中で、音が消える。
心臓の鼓動だけが、やけに大きい。
(……ああ、やっぱり)
驚きはある。
怖さも、ないわけじゃない。
でも。
逃げたいとは、思わなかった。
ゆっくりと、息を吐く。
「そっか」
その一言に、震えはない。




