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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第25章|告白の行方 2
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(1)話をしたい

理永は、もどかしい気持ちのまま由良を待った。


一日が過ぎ。


二日、三日――


偶然は起こらない。


姿も見ない。


今日で一週間になる。


(やっぱり、避けられてる)


胸の奥が、ひりつく。


何かあったのかもしれない。


それとも、やはり――話す気はないのか。


考えても答えは出ない。


だったら。


「……よし」


小さく息を吸う。


待つのは、もう終わりにしよう。


怖いものはない。


そう言い聞かせて、理永は由良の住所を頼りに歩き出した。




郊外へ向かう道は、次第に人通りが減っていく。


住宅街を抜けると、空気がひやりと変わった。


塀に囲まれた一軒の邸宅が、視界に現れる。


高い門。


手入れの行き届いた庭木。


なのに、妙に静かだ。


人の気配が、ない。


(……道、合ってるよね?)


肌寒い。


夕暮れの光が、建物の影を長く伸ばしている。


なんだろう。


胸の奥が、ざわつく。


怖い。


けれど。


来てしまった。


高い門の前で、理永は立ち尽くす。


インターホンに手を伸ばそうとして――


止まった。


風が、ふっと止む。


背後で、砂利を踏む音。


「……こんなところまで来るとは思わなかった」


低い声。


振り返る。


そこに、由良が立っていた。


夕暮れの逆光の中で、表情はよく見えない。


けれど、視線だけははっきりと分かる。


驚きでも怒りでもない。


――覚悟を迫られた人の目。


「……待てなかったのか」


責める声ではない。


むしろ、どこか苦しげだ。


理永は、喉を鳴らす。


「待ったよ」


一歩、踏み出す。


「一週間。ちゃんと、待った」


沈黙。


風が、また吹く。


由良は目を伏せる。


「俺は……もう少し、時間が欲しかった」


その言葉に、理永の胸が締めつけられる。


「でも、来た」


まっすぐに見上げる。


「逃げないって決めたから」


由良の指先が、わずかに震える。


夕日が沈みかけ、光と影が、彼の輪郭を二つに分ける。


人の側と、そうでない側。


「……入れ」


低く、諦めたように。


門が静かに開いた。


門をくぐる。


まさに邸宅だった。


庭の奥から、水の音がかすかに聞こえる。

広い庭。

整えられた芝。

季節外れの花が、静かに揺れている。


(……広)


思わず息を呑む。



由良は何も言わず、先を歩く。

理永はその背中を追った。


「おじゃまします」


玄関で靴を脱ぎ、きちんと揃える。


磨かれた廊下。

足音がやけに響く。

中庭まである。


光が落ちかけているせいか、どこか冷たい。


「ケーキ、買ってきたんだけど」


紙袋を少し持ち上げる。


「……おうちの人は?」


「いないよ」


短い答え。

その声音に、嘘はない。


客間に通される。


重厚な家具。


静かな空間。


由良は慣れた手つきで紅茶を淹れる。


カップが置かれた瞬間、香りが立った。


理永の、好きな茶葉。


(……なんで)


何も言わない。


けれど、知っている。


それだけで、胸が苦しくなる。


向かいに座る由良。


視線が合う。


夕暮れの光が、部屋の奥へ沈む。


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