(4) 揺らがないもの
あの日から、どこかぎこちないまま――
由良は変わらない。
講義では会うし、挨拶もする。
けれど。
あの夜のあと、二人きりになる時間はなくなった。
偶然が、なくなった。
(避けられてる……?)
そう思うたび、胸が痛む。
でも、不思議と後悔はなかった。
言えなかったこと。
止められたこと。
それでも、自分の気持ちは変わらないと知ってしまったから。
夕方。
図書館を出ると、空は曇っていた。
「理永」
振り向くと、由良が立っている。
少し、やつれたような顔。
「……久しぶり」
「……うん」
たった十日なのに、ひどく遠い。
背後でガタン、と大きな音がした。
振り向くと、自転車が倒れ、
怒鳴り声が上がる。
険しい顔の男がこちらへ歩いてくる。
「ぶつかっといて無視か?」
「えっ……」
理不尽な言いがかり。
理永は凍りつく。
次の瞬間、由良が前に出た。
「俺が話を聞きます」
声は穏やか。
けれど、空気が重く沈む。
男は一瞬だけたじろぐ。
由良の瞳が、深く、冷たく光る。
あの夜と同じ。
人ではない何かを感じさせる気配。
男は舌打ちし、去っていく。
静寂。
「……今の、何?」
思わず漏れた。
由良は答えない。
ただ、どこか覚悟を決めた顔で理永を見る。
その表情で、理永は確信する。
――この人には、何かある。
でも。
それでも。
理永は一歩、近づいた。
「由良くん」
あの日、止められた言葉
それでも。
「私、あの日の気持ち、変わってない...」
由良の喉がわずかに動く。
「どんな事情があっても。
何を隠していても。
私は...あなたが好き」
逃げない。
揺れない。
由良の目が、ゆっくりと閉じられる。
「……本当に、後悔しないか」
「しません」
即答。
沈黙。
長い沈黙。
やがて、由良が小さく笑う。
諦めたように。
愛おしむように。
「……わかった」
そして、低く呟く。
「次に会うとき、全部話す」
夜風が二人の間を通り抜けた。
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