(3) 偶然の重なり
それからの数日、
理永は図書館で由良と顔を合わせるたびに、胸の奥がソワソワ落ち着かないのを感じていた。
教科書を取りに来ただけのつもりでも、
視線が自然と向かってしまう。
由良はいつも静かに、でも確実に存在感を放っていて、理永の心を掴んで離さない。
「……またいる」
小声で呟き、理永は手元の本をぎゅっと握る。
彼は勉強に来ているだけなのに、理永の意識は完全に由良に釘付けだった。
ある日、ついに理永は意を決して話しかけてみることにした。
「あの……昨日の授業の課題、理解できましたか?」
少し声が震えたけれど、由良は目を上げて、ゆっくり微笑む。
「うん。大丈夫だと思う」
その声は穏やかで、理永の緊張を溶かすようだった。
思わず頷き、二人の間に自然な空気が流れる。
「もしよかったら、一緒に考えませんか?」
理永の言葉に、由良はほんの少し目を細めた。
頷きながら椅子を少し寄せる。
「……いいよ」
二人で教科書を並べ、ページを覗き込む。
理永は、初めて自分から距離を縮められたことに胸が高鳴るのを感じた。
図書館の静けさの中で、二人の世界だけが少しだけ近づく。
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そして数日後。
偶然にも、理永は大学の外でも由良を見かけるようになる。
駅前のカフェで、キャンパスの並木道で、バス停で。
偶然が重なり
必然のように出会ってしまう。
「……また、会ったね」
小さな声でつぶやく理永に、由良は穏やかに微笑む。
「偶然、だね」
でもその瞳には、理永だけに向けられた温かさがあった。
理永は思わず目を逸らす。
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
(……なんでだろう、会うたびに心がざわつく)
どの人生でも、恋に落ちるのは理永から。
それを由良は、静かに受け止めるだけ。
でもそれでいい。
少しずつ、少しずつ。
二人の距離は、静かに近づいていく。
理永は知らない。
この“偶然の重なり”が、意図されたものだということを。
図書館でも、大学の街角でも、
新しい日常の中で、二人の物語は静かに動き始めていた。




