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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
【第二幕】 第23章 | 出会い
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(1) 偶然のふり

「第2幕:地上編(恋愛・過去編)開幕。

午後の図書館は、眠たくなるほど静かだった。


高い窓から射し込む陽の光が、長机の上に四角い影を落としている。


理永(リエナ)は積み上げた本の山を前に、ため息をついた。


「レポート多すぎ……」


文学部二年。

平凡で、忙しくて、少しだけ夢見がちな女子大生。


それが彼女だ。


自分が何かを忘れているなんて、考えたこともない。


けれど――

最近、同じ夢を繰り返し見る。

目が覚めるたび、胸の奥だけがざわついていた。



知らない風景。

遠い月。

泣きそうな誰か。


でも思い出せない。


ページをめくろうとした瞬間、向かいの椅子が引かれる音がした。


顔を上げる。


そこにいたのは、見覚えのない男だった。


長身。端正な横顔。

そして——


陽の光を受けて、琥珀色の髪がきらりと輝く。


一瞬、息が止まった。


綺麗、という言葉では足りない。


光を含んだ飴色。

まるで、時間そのものを閉じ込めたみたいな色。


男は静かに本を開く。


仕草がやけに洗練されている。


古い時代の肖像画から抜け出してきたみたいに。


(こんな人、うちの大学にいたっけ……?)


気になって、つい見てしまう。


すると視線に気づいたのか、男が顔を上げた。


琥珀色の髪の下、深い蜂蜜色の瞳。


目が合う。


心臓が、強く打つ。


「……何か?」


低く、落ち着いた声。


理永は慌てて視線を逸らした。


「い、いえ。すみません」


声が少し上ずる。


なんでこんなに緊張してるんだろう。


初対面なのに。


まるで。


ずっと前から知っている人みたいに。


沈黙が落ちる。


ページをめくる音だけが響く。


なのに、空気が妙に熱い。


しばらくして、理永の手元から一冊の本が滑り落ちた。


「あっ」


同時に、男の手が伸びる。


指先が触れた。


ほんの一瞬。


それだけなのに。


胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。


懐かしい。


そんなはずないのに。


男の瞳が、わずかに揺れた。


「……君、名前は?」


自然すぎる問い。


でも、どこか確かめるような響き。


「理永、です」


口にした瞬間、なぜか胸が温かくなる。


男はほんのわずか、目を細めた。


その表情は——


安堵。


「そうか」


小さな吐息。


その表情は——

ほんの一瞬だけ、何かがほどけたように見えた。


でも理永は知らない。


彼が千年生きる吸血鬼であることも。


この出会いが“偶然を装った必然”であることも。


男は本を閉じる。


「由良だ」


名乗る声は穏やかだった。


「隣、いいか?」


「は、はい」


なぜか断れない。


断りたくない。


由良が座る。


距離が近い。


体温は感じないのに、存在だけがやけに鮮明。


理永はページを開いたまま、文字が頭に入らなくなっている自分に気づく。


ちらりと横を見る。


真剣な横顔。


整った睫毛。


静かな呼吸。



ただ、惹かれている。


まだ何も知らない人のに。


——好きかもしれない。


いや、ちがう。顔が良いから錯覚してるだけ。



由良は視線を本に落としたまま、ほんのわずかに唇を緩めた。


(……やっぱり、そう来るか)

——小さく息を吐く。


最初に距離を縮めてくるのは、 いつだって彼女のほう。


恋に落ちるのは、彼女のほうが先。


それでもいい。




図書館の静寂の中で、


新しい恋が、静かに始まった。


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