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(1)龍神殿で育つ子供たち
龍神殿は、いつも静かだった。
風は穏やかで、雨は必要な分だけ降る。
争いは起きず、欠乏もない。
ここでは、子供たちは泣かない。
泣く理由を、まだ知らないからだ。
白い回廊を駆ける足音。
水盤に映る自分の顔を、不思議そうに覗き込む視線。
与えられた言葉、与えられた答え。
それが、この場所の「正しさ」だった。
けれど最近、子供たちは立ち止まるようになった。
「どうして?」
誰かがそう口にしたのは、ほんの些細なきっかけだった。
龍の像が空を向いている理由。
祈りの言葉が、同じ順序で繰り返される理由。
答えは、すぐに与えられる。
それでも――子供たちは、納得しなくなった。
「そう決まっているから」
その言葉が、初めて空虚に響いた。
考えることを覚えた子供たちは、
同時に「選ぶ」という概念に触れ始めていた。
それは、成長だった。
そして同時に、管理されてきた均衡からの逸脱でもあった。




