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勇者に恋した僕は、強くなるたび彼女を壊してしまう  作者: 小林南瓜
第一章 始まり

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第四話 剣を振るう日々

 訓練場は、街の端にあった。


 石壁に囲まれた、土の地面。

 朝から夕方まで、誰かしらが剣を振っている。


 木剣がぶつかる音。

 掛け声。

 息の上がる音。


 どれも、この街では珍しくない光景だった。


「新入りか」


 入口で立ち止まっていると、年上の男に声をかけられた。


「はい」


「金は?」


「……あまり」


 男は一瞬だけ考えてから、顎で奥を示す。


「じゃあ雑用だ。

 水運び、掃除、的の修理。

 終わったら、空いてる時間に振れ」


 投げやりでもなく、親切でもない。

 ただ、それが普通なのだと分かる口調だった。


 断る理由はなかった。


====================================================================


 水桶は重かった。


 何度も往復するうちに、腕がじんわりと痺れる。

 それでも、作業を終えれば剣を振れる。


 それだけで、十分だった。


 木剣を握る。


 重み。

 手のひらに伝わる感触。


 振る。


 空を切る音が、思ったよりも鈍い。


 最初は、それだけで精一杯だった。

 型も分からない。

 足運びもぎこちない。


 周囲では、皆が当たり前のように剣を扱っている。


(……遠いな)


 そう思いながらも、

 不思議と焦りはなかった。


 振る。

 また振る。


 すると、ある瞬間――

 頭の奥で、何かが“揃う”感覚があった。


(……今のは)


 言葉にできない。

 ただ、何かを得たと分かった。


 その日の夜、宿で横になったとき、

 ふと、意識の隅に感覚が浮かぶ。


 溜まっている。

 力の“余白”のようなものが。


 どう使えばいいのかは、

 なぜか分かっていた。


(……剣だ)


 意識を向けた瞬間、

 余白が、静かに溶けていく。


 次の瞬間。


 身体が、ほんの少し軽くなる。


 踏み込みが深くなる。

 剣先の軌道が、安定する。


 劇的な変化じゃない。

 でも、確かに――昨日までとは違う。


 翌日も、剣を振った。


 雑用の合間。

 人の少ない時間。


 振るたびに、あの感覚が積み重なっていく。


 夜になると、また“余白”が溜まっている。


 それを剣に向ける。


 ――切り替わる。


 今度は、はっきりと分かった。


 身体の内側で、

 段階が一つ、上にずれた。


 呼吸が安定する。

 視界が、わずかに広がる。


(……これが)


 口に出す前に、理解してしまった。


 ――レベルが、上がった。


 訓練場で、例の男がこちらを見て呟く。


「……動き、締まってきたな」


「そうですか?」


「普通はな、

 一つ上げるのに、何週間もかかる」


 その言葉で、ようやく気づく。


 自分の成長速度が、

 周囲と比べておかしいことに。


(……もう、二つ上がってる)


 それでも、不思議と怖くはなかった。


 剣を振れば、応えてくれる。

 身体が、ちゃんと前に進んでいる。


 夜、剣を磨きながら、思い出す。


 森で見た、赤いマント。

 迷いのない剣筋。


(……同じ場所には立てない)


 それでも。


 同じ武器を選び、

 同じように剣を振っている。


 それだけで、胸の奥が満たされた。


 翌日も、剣を振る。


 余白が溜まる。

 剣に振る。


 レベルが、また一つ上がる。


 それが、この世界での正しい成長なのだと、

 この時の僕は、疑いもしなかった。


 ――この強さが、

 誰かに繋がっている可能性なんて、

 考えもしなかったから。

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