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勇者に恋した僕は、強くなるたび彼女を壊してしまう  作者: 小林南瓜
第一章 始まり

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第三話 知らなかったことばかり

 街に着いたとき、思っていたよりも人が多かった。


 石畳の道。

 木と石でできた建物。

 行き交う人々は、誰もが剣や杖を身につけている。


(……当たり前、なんだ)


 剣を持つことも、魔法を使うことも。

 ここでは、それが特別じゃない。


 市場の端で、腹の音が鳴った。


 気づかないふりをしていたが、

 森で目覚めてから、何も口にしていない。


 屋台の匂いに引き寄せられ、

 気づけば立ち止まっていた。


「おい、兄ちゃん」


 声をかけてきたのは、店主らしき男だった。


「金、持ってるか?」


 正直に、首を横に振る。


 男は一瞬だけ渋い顔をしてから、

 ため息混じりに言った。


「じゃあ、代わりに荷運びだ。

 昼まで手伝え」


 断る理由はなかった。


 重たい箱を運び、

 言われた通りに並べる。


 作業の合間に、自然と会話が生まれた。


「どっから来た?」


「……遠くからです」


「まあ、見りゃ分かる。

 装備がちぐはぐだ」


 笑われたが、悪意はなかった。


「冒険者か?」


「……たぶん、これから」


「なら、まずは登録だな」


 男は、通りの向こうを顎で示した。


「ギルドに行け。

 仕事も、情報も、全部そこに集まる」


 その言葉が、胸に残った。


 ギルド。


 後で行ってみようと、心に決める。


 昼になり、簡単な食事を受け取る。

 硬いパンと、薄いスープ。


 それでも、温かかった。


(……生きていけそうだ)


 そんな感覚が、ようやく芽生える。


====================================================================


 ギルドは、すぐに見つかった。


 大きな建物。

 出入りする人の多さが、役割を物語っている。


 中に入ると、視線が集まった。


 新参者だと、一目で分かるのだろう。


 受付の女性が、事務的な声で説明する。


「登録には、武器か、魔法の適性が必要です」


「……適性?」


「持っているスキルに合わせて、

 仕事を紹介します」


 説明は簡潔だった。


 詳しいことは分からない。

 でも、この世界では――


 力を持たない者は、選ばれない。


 それだけは、はっきり伝わってきた。


「武器は?」


 問われて、腰の剣に触れる。


 無意識だった。


「剣、です」


 それ以外の選択肢を、

 この時の自分は考えていなかった。


 森で見た光景。

 赤いマント。

 迷いのない一閃。


 あの背中が、まだ胸に残っている。


「分かりました。

 では、剣士志望として登録します」


 小さな木札を渡された。


 名前が刻まれている。


 ――シュン。


 この世界での、自分の居場所。


 ギルドを出ると、

 街の喧騒が、少しだけ違って聞こえた。


 何も知らなかった。

 何も持っていなかった。


 それでも。


 一つだけ、選んだものがある。


 剣。


 それが正解かどうかは、分からない。


 けれど。


 この世界で生きていくなら、

 まずは、そこから始めるしかなかった。


 知らなかったことばかりの世界で、

 僕はようやく、

 最初の一歩を踏み出した。

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