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96 パクチー汁を飲ませた元カニ

 会議を。

 そうだな。


 先ほどの会議は、状況把握だけに終始した。

 今後のことをきちんとはっきりさせておかねば。

 方針と行動を明確にしておかなければ。


 今、月曜日の午前八時。

 人間界では何時だろう。

 ジンらは無事に自宅に帰り着いただろうか。

 そして登校の電車に乗っているだろうか。

 ガリはすでに授業準備室の鍵を開けただろうか。

 そして、アイボリーとミカンは見つかっただろうか。

 元気に登校しているだろうか。



 アイボリーに関しては、ヨウドウに連絡すれば、帰ったかどうかくらいはわかる。

 しかし残念ながら、ここは妖怪界。スマホは圏外。

 どこかのタイミングで、つまり、向こうがお昼休みの時に連絡を入れておきたいが、その時がいつか、どうやって知ればいいのだろう。


 そして、自分自身、いつここを引き払うのがいいだろう。

 ハルニナはいてほしいと思うだろうが、部外者をそばに控えさせておくというのは総帥ハルニナにとってマイナスが多いはず。

 他の幹部連中、メイメイを除いて、いい気分はしないだろう。



 会議が終わるタイミングで、引き払うとしよう。

 それがいい。


 ただ、問題は、自分一人であいだみちを使ったことがないこと。

 どうやって依頼すればいいのか、どこを通り、どの口から出ればいいのか、全く知らない。

 いつまでたっても、情けないな、俺は。

 ことこの世界では、身動きさえできない赤ん坊。



 会議は順調に進んでいる。

 ハルニナは毅然とした態度で、各幹部に方針と実現するべき事項を明確にし、行動についての指示を与えている。


 唯一、議論が停滞したのは、パクチー汁を飲ませた元カニの処遇。


 パクチー汁を飲むと、入り込んだ他人の意識は洗い流されアンマニフェストするが、その後、意識の再構築ができるまで、意識が定まらず、いわば錯乱状態になる。

 常時ではなく、錯乱と鎮静状態が入り混じる。

 その期間、短くて二週間、長い人だと一か月超。

 彼らがコアYDの最奥部で療養していた。


 その数、二百名。

 すでに、絶対に安全だと思われるエリアに避難しているが、狭くて健康的とはいえない環境。

 しかも、看護に支障がある。ルアリアンの看護体制が崩壊し、サポートもいき届かない。


 彼らをどうするか。


 さすがに、ここに、というのは虫が良すぎる。

 人数が多すぎる。

 かといって、コアUDに移送することはできない。

 移動手段がないし、心情的にも。


 我慢を強いる、あるいは放置というわけにもいかない。

 彼らは、自ら進んで、あるいは説得に応じて、あるいは強引にパクチー汁を飲まされた人たち。

 その意思を尊重しないわけにはいかない。


 が、妙案はない。



 あるルアリアンが所有する信州のリゾートホテルをそれに充てるという案もあるが、課題は山積み。

 まず、移動。

 あいだみちに頼めば、どこにでも口を開いてはくれるかもしれない。

 ただ、あまりに大人数。

 お館様に依頼するしかないが、今していただいていること以上の面倒ごとを追加依頼するのか。

 移動できたとして、療養の間、ホテル従業員を休ませる必要がある。

 一般人にPHの存在を気づかせてはならないからだ。

 看護やサポート人員もろとも、移動し、住み込まなくてはならない。

 たださえ、そういった人たちは、行方不明者として警察が探している。


 唯一、この課題だけは結論が出ない。

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