91 それ、呑まなくちゃいけないの?
ハルニナに何と伝えよう。
ランと仲睦まじく、が条件だっだよ、と言えるものか。
もしかして、ハルニナは泣くぞ、もしかして、激昂するぞ。
いや、伝えないのは、さらに裏切りだ。
ハルニナは泣かなかった。
激昂もしなかった。
その代わり、こう言った。
とてつもなく大きな見返りを要求されたものだわ。
それ、ミリッサ、了解したの?
私は、それ、呑まなくちゃいけないの?
おいおい。
頼むから、黙って呑んでくれよ。
「ヲキさん、ありがとう。お疲れさまでした」
ヲキはハルニナに、いいご友人をお持ちですね、と意味深な言葉を残して立ち去った。
すでに夜半が近い。
ジンらはどうしているだろう。
あ、しまった!
念のため、アイボリーらが来ていないか、お館様に問うておくべきだった。
しかし、アイボリーらが妖怪界に行く理由はない。
どう考えてもない。
いずれにしろ、後悔先に立たず。
「ジン。連絡、遅くなった。ごめん。やっぱりアイボリーとミカンとは会えないよ」
「こっちも。全然連絡取れない」
「うん。で、どうだ、そっちは」
「ルリイア先輩のおかげで快適に過ごしてます。でも、やっぱり泊めてもらうのは迷惑だから、歩いて帰ろうかなって」
調べたら阪急電車は動いてるみたいだから。増便されてるみたいだし。
西山天王山駅、案外、近い。わずか四キロちょっと。
もっと早くに気がつけばよかった。
「そうかあ。あ、そうそう、ンラナーラは見つけた。元気にしてる」
「よかった。今、どこに?」
「競馬場。別行動で探してくれてる」
嘘をついたが、許してくれ。
ジンは、ハキハキ応答しているが、やはり声に力がない。
無理もない。アイボリーとミカンが気になってしようがないのだ。
「今、ここにハルニナもいる。元気だ。メイメイも」
「あ、そうなんですね」
「代わるか?」
「いえ、いいです。あ、フウカ先輩もスペーシア先輩も、今日は競馬場に来てなかったらしくて。よかったです」
「よし。じゃ、ガリさんに代わって」
ガリには、念を押すまでもないが、皆が阪急電車に乗るところまで、見守ってもらわねばならない。
「ガリさん、すみません。阪急電車で帰る件、ジンから聞きました。僕もそれでいいと思います。よろしくお願いします」
「先生はどうされます?」
「まだもう少し競馬場にいます」
「そう。アイボリーとミカン、早く見つかればいいですね」
「はい」
「どうぞ、お気をつけて」
「ガリさんも、お疲れの出ませんように」
それにしても、あの二人、いったい……。
さて、この後、どうするか。
土嚢詰め作業に戻るか。
幸い、妖怪の館で岩風呂をよばれた後には、軽くではあるが、食事まで用意されていた。
その間に、洗濯まで済ませてくれている。
お館様の厚意、ありがたく受け取らねば。
そのおかげで、何とか体力は回復している。
「じゃ、土嚢詰めに戻るよ」
「ちょっと待って。ここにいてくれた方がいいかも」
「そうか」
「お館様から使者が来るらしい」
「おう、そうか。追加の見返り要求かな」
「そんなセコイこと、お館様はしない。妖怪陣が、この洪水の原因を探ってくれてる。彼らは彼らの事情があるみたいで。その中間報告。さっき、通信役の妖怪が伝えてきた」
なんと、一般人の知らないところで、いろいろな動きがあるものだ。
しかも、PHと妖怪。
親密ではない、と以前、ハルニナから聞いていたが、なんの。
いざとなれば、協同してことにあたる。
今が、そうなのかもしれない。
たしかに、前代未聞の災害ではないか。
宇治川の底が抜けた?
で、競馬場の池の水を噴き上げ、知られざる地下施設であるコアYDを水没させようとしている。
一般人は、全く知る由もない災害。
そしてこれに対処しようとするPHと妖怪。
まるで、これは映画の世界……。
ただ、奇妙なこともある。
スマホがかなりの時間、圏外になった。
これは、水没と関係するのかもしれないが、そんなことがあるだろうか。
そして京阪電車運休。
システム異常としか発表されていないが、なぜ?
宇治川地下洪水と関係があるとは思えないが……。
たまたま、符合するように生じたことなのか……。




