85 久しぶりに聞いた「あいだみち」
「ここから」
ンラナーラもコアYDに精通しているようで、迷いはない。
草むらの岩陰、以前ハルニナやメイメイと通った穴からコアYDに入った。
コアの中枢部に向かって走った。
走りながら聞いた。
「ンラナーラ。なぜ、ここに?」
「内緒、かな。ミリッサは?」
「ハルニナの救援だ」
「ふうん。でも、ミリッサ」
言いたいことはわかる。
PHでもないのに、なぜ?
ということだ。
かつては特殊なPHだと言われた。パクチー汁を飲んで、PHの意識を洗い流したのだ。
が、説明している時間はないし必要もない。
それより。
「なぜ、スタンドから消えた。どこに行ってたんだ」
「それ、ダメ。ミャー・ランがいい、って言ったら、話す」
なるほど、ランの指示ということか。
「アイボリーとミカンは?」
「知らないラ」
「そうか……」
別行動か。
アイボリーとミカンはPH、ンラナーラは妖怪。
ということは……?
考えはまとまらない。
まあいい。
今は急ごう。
ハルニナは今どこにいる。
まず、地下二階の幹部室が並んでいる通路、そこへ向かおう。
「ンラナーラ。ここでもういいぞ。後はわかる」
「そう?」
「助かった。自分の仕事に戻ってくれ」
あそこで会ったのだ。
きっと宇治川の様子など、見に来たのだろう。
「もう、済んだ。あいだみちから、帰る」
久しぶりに聞いた「あいだみち」
あの妖怪にも世話になった。
日本全国を秘密の道で繋いでくれる妖怪たち。
お礼のお菓子さえ差し出せば、人間だって通してくれる。
入ったところが梅田の茶屋町で、出たら神戸の御影。
その程度ならお安い御用。
妖怪の村にだって、簡単に行くことができる。
姿は見えねど、妖怪界の移動手段として重要な役割を果たしている。
そんな妖怪。
「帰ったらランに会うのか?」
「はい」
「じゃ、伝えてくれ。いや、やっぱいいい」
コアYDの支援を、と一瞬考えたが、それは自分が言うべきことではない。
必要とあればハルニナがお館様に依頼するだろう。
いや、もう依頼しているかもしれない。
現に、ンラナーラはここにいる。
じゃ、ここで、しばし、お別れ。
と、ンラナーラは赤い右目をきらめかせて、消えた。
妖怪。
目の前のことをすぐにそのまま受け入れる。
悲壮感といった感情には無縁の存在。
「おう! ランによろしくな」
「あ、いや、それは……」
声だけが遠ざかっていった。




