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84 訳は後だ! 入れてくれ!

 ハルニナの言葉がよみがえる。

 案内役として、アイボリーとミカンとンラナーラの名を挙げた。

 ということは、ミカンもPH、ということだろうか。


 そしてンラナーラが妖怪だと知っているということだ。

 それは、そう。

 PHはPHを、そして妖怪を見分けられる。


 ん?

 ということは。

 うっかりしていた。

 アイボリーも、ンラナーラが妖怪だと知っていたことになる。

 もしかするとミカンも。


 昨年と同じだ。

 自分の身の周りにPHやら妖怪が、なぜか集まっている。

 異常な密度。

 あの時は、PHルアリアンの総帥が紅焔の学生でサークルメンバーだから、当然と言えば当然、と思っていたが、まだその状況は続いているということだ。



 競馬場のステーションゲートは一階も二階も閉まっていた。三冠ゲートも閉鎖。

 馬運車が通る通用門は開いていたが、物々しい警戒。とても通り抜けられない。

 場外には、依然、人、人、人。

 ゲートでは、中に入れろという群衆が怒声を上げていた。

 JRAの対応に、非難が殺到すること必至。

 だが、徒歩で帰宅を試みる人も多いのだろう。

 先ほどよりかなり少なくなっている。



 仕方がない。

 外周を見て回ろう。

 可能性はゼロだが、どこか、忍び込める箇所があるかもしれない。

 幸いに夕刻。

 人目を避けやすい。


 引き返し、大型遊具のあるエリアの外を通り、住宅街に入った。

 できるだけ競馬場に沿って歩いた。

 都合のいい場所はなかなかない。

 民家に忍び込めば……。まさかな。

 なんのアイデアも浮かばないまま、薄暮れとなった街を歩き回った。


 とうとう宇治川の堤防まで来た。

 堤防の上を歩いても意味がない。

 競馬場の柵に沿って、堤防の下、草むらを行かねばならない。

 踏み入ってしばらく進んだが、絶望的な気分になった。

 草や灌木が生い茂り、手や顔が切れ、血がにじむ。

 もうすぐ夜。

 無理だ……。


 いったん、マンションに帰るべきだ。

 出てきてからかなり時間が経っている。

 ジンに電話を架けたが話し中。



 柵越しから場内を眺めた。

 淀の坂の背後。

 ここか……。

 このあたりだったろうか。以前、同じような時間帯、スタンドの照明を見ながら、ハルニナの話を聞いたことがある。



 戻ろう……。


 と、場内の薄暗がり、草むらで何かが動いた気配がした。


「あ、ミリッサ?」

 暗がりから声がした。


 この声は!


 抹茶色の服が暗がりの植栽帯に溶け込んでいる。


「ンラナーラか!」

「あ、やっぱり! こんな、ところ、いる? なんで?」

「訳は後だ! 入れてくれ!」

「かしこまった!」


 と、目の前にンラナーラが立っていた。

 銀色がかった赤い特大の瞳が光っていた。


「抱いて」

「え」

「あ、抱き、ついて」

「でも」

「いいラ」

「せめて大猫の姿に」

「つべこべ、言わないラ」


 まるで、ランのようだ。

 が、構っていられない。


「頼む」


 ンラナーラは軽々と柵を飛び越えた。

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