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83 こっちに来れる?

 ルリイアから連絡が入り、衣服は自由に使ってくれていいと申し出があった。

 マンションにとりあえず避難。


 女性陣はお言葉に甘えて、なんとか、体裁を整えようとしている。

 濡れた髪に順番にドライヤーをかけている。

 それぞれ、家族に連絡。

 とりあえず、一段落。


 京阪電車再開のめどは立たず、バスかタクシーでJRか阪急線のどこかの駅に向かうしかない。

 そんな案も出たが、バスにしろタクシーにしろ、なにしろ大量の人、人、人。

 帰宅難民の海。乗れる可能性はないに等しかった。


 もしかすると、今日はここで一晩ご厄介になるしかないのか。


 テレビが臨時ニュースを伝えている。

 京都競馬場で異変が発生、、、、。

 京阪電車はシステム異常で全線で運転できず、、、。

 宇治川および桂川の水位が急激に下がり続け、、、。


 スマホの通信が復活した。

 アイボリーらに連絡を試みるが、繋がらない。

 電源が入っていないか、電波の届かないところ……と、いうのみ。



 ベランダに出ていた。

 彼女らが着替える間、ずっと。

 競馬場を見ていた。


 いったい、なにが……。

 アイボリーらは、どこに……。


 なにかしなくてはいけないが、なにをすれば……。

 落ち着いて考えよう。

 まず、アイボリーのことをヨウドウに報せるべきだ。

 それから、大学当局へ一報。

 ミカンの実家は……。大学は教えてくれるのだろうか……。


 ここを出るか、泊めてもらうか、いつまでに判断すればいいか。



 と、ハルニナから連絡があった。


「ミリッサ、今、どこ?」

「ルリイアのマンション」

「そう。じゃ、みんなと一緒ね」

「みんなというか……」

「ミリッサ、こっちに来れる?」

「ん?」

「大惨事。大洪水」

「なんだって!」


 コアYDが浸水し、かなりのエリアが水没しつつあるという。


「ミリッサの部屋の荷物も取りに行けない」

「そんなこと、気にするな」

「資材の運び出しに人手が一人でも欲しいのよ」


 関西在住のPHルアリアン全員に緊急呼び出しをかけているという。


「よし、すぐ行く」



 しかし、他は誰も連れていけない。

 PHは隠された存在。必然的に、その拠点コアYDも一般人に知られるわけにはいかない。


 自分一人で向かうことになるが、どうやって。


 コアYDへのルートはたくさんあるが、知っているのは、競馬場内プチ遊園地ポーハーハー・ワイ奥の倉庫ルートのみ。

 競馬場はすでに閉鎖されているに違いない。いや、帰宅難民のために、開いているかも。


「迎えは出せない。アイボリーかミカン、いる?」

「それが」

「じゃ、、ん、、ンラナーラは?」

「それも……」

「そう……。じゃ、しかたない。ミリッサ、ごめん、無理言って。いつでもいいから、もし競馬場に入れるようなら、来てくれる?」

「いいのか? それで間に合うのか? 俺の荷物はどうなってもいい。決して優先するなよ。で、メイメイは無事か?」

「うん。ここにいる。変わろうか?」


 メイメイの声を聞いて安心して通話を切ったものの、気が気ではない。

 大洪水とは。


 宇治川や桂川の水位が急激に下がったとニュースでは言っていた。

 地下のコアYDに流れ込んだのか。

 あの水柱も、その中で起きたことか。


 宇治川の水量はとてつもなく多い。

 何時間も流れ込み続けたら、完全水没も時間の問題ではないか。

 そもそも人的被害はないのか。


 ずぶ濡れになって奮闘しているハルニナやメイメイの近くに居ながら、ここで、競馬場を眺めていていいのか。

 いてもたってもいられなくなってきた。

 ものは試しに、競馬場内に入れるかどうかだけでもトライしてみなくては。



 とはいえ、今すぐ、ここを離れるわけにもいかない。

 顧問として、ジンやガリらがこの後どうするか、見届けなくては。


 ジンがてきぱきと、今日一日、これからどうするか、そしてその準備の手配を始めている。


 食料品の買い出し班。ガリさん、お願いします。ブルーとピンク、一緒に行って。荷物持ち。

 スズカは各交通機関の状況を見に行って。情報収集。

 ボクは先輩たちに連絡して、もし競馬場に来てたら、ここへ来てもらいます。

 もし、ここに泊めてもらうことになったら、それはその時。



 競馬場の様子を見に行くと言い残してマンションを出た。

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