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76 もしかして恋してる

 キャンパスの最北端、テニスコートわきの庭園、藤棚の下のベンチに移動した。

 阪神間の眺望が楽しめるスポットだが、急坂を上らなければならないことから、人っ子一人いないことが多い。



 フウー、ここ、いつも気持ちがいいですね。

 薫風、ってこういう風のことを言うのかな。


 ガリがウンと伸びをした。

 それに倣いながら、秋の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。



「私、去年、実は半信半疑でした。先生のされようとしていることに。最後の最後、あのお庭での出来事をこの目で見届けるまでは」


 ガリは、昨年のノーウェ殺人事件のことから話し出した。


「さっきのお話もそうでした。先生は、本当にまっすぐ、あの子たちに対峙されようとしてるんだ、と知りました」


 そんな話をしにここまで来たわけではない。

 たこ焼き居酒屋案件のことを話すのでは?


「今回の取り組み、っていうんでしょうか、彼女たちがやろうとしていること、先生がそれをよしとされるのなら、私も信じます。ですから」


 と、ここで言葉を切った。

 そして、再び伸びをした。


「私にも、なにかもっと、話してくださり、もっと、私にできることを教えてくださいませんでしょうか。これこれを調べろ、とか」



 ガリはもともと、きっちりしすぎる女性。

 歯に衣着せぬ言葉で、ストレート表現する女性。

 正直に言えば、ちょっと煙たい存在。

 そう思っていた。

 昨年の出来事でかなり印象は変わったとはいえ、ここまではっきり言われると、返答に困る。

 では、そうしましょう、と言ってしまってよいものか。


 不安をよそに、ガリの乾いた声は続く。


「見ていてわかります。ジンもアイボリーも、先生に絶対的な信頼を置いています。授業のことやサークルのことだけでなく、すべてにおいて」

「それは言いすぎでしょう」

「いいえ、そうです。しかも、もしかして先生を好き、もしかして恋してる、とまで思います」

「ますます違うでしょう。それは」

「私も女。それくらいのことはわかります」


 はあ。

 それで、この話はどこへ向かうのか。

 胸のアラームが鳴り響いている。


「ちょっと言い方はおかしいですけど、私にも、そう思わせてほしい、と思います」


 えっ。

 それはどういう意味……。

 

「勘違いしないでください。つまり、さっきのお願いと同じです」


 ……なるほど。


「私もサークルの一部員。これは、まあ、そうは言っても、彼女たちにはできないでしょう。でも先生は、特に今回のような取り組みには、私もメンバーの一人として見ていただきたいのです」


 やはり、まだ返事のしようがない。

 わかりましたとも言えず、考えておきますとも言えず。

 また伸びをして、遠く大阪湾を眺めるしかない。


「今日は関空まで、はっきり見えますね」

 と言うしかない。

「秋ですねー」

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