66 シャツに虫、ついてる
金曜日、合宿代わりのハイキング。
狐掛風穴・双頭山&栗東トレセン外からチラ見ツアー。
遅い秋の始まり、九月末。
絶好のハイキング日和。
参加者は在学生全員、休部中のメンバーからはランのみ参加。
という賑やかな一行になった。
「ラン! 来てくれたんだ!」
ジンは特大の喜びよう。
山登りと洞窟探検で涼を、と自分で言いだしたものの、少し不安になっていたのだという。
「これで、変なのが出てきても、ランに成敗してもらえるね!」
バスを降り、屈伸運動をしてから踏み入れた山道。
かなり荒れていた。
しかし、通れないことはないし、さほど急峻でもない。
案内板などないが、一本道。
途中、大小の石仏が、点々と祀られている。
歩き始めてものの半時間も行かないうちに、岩肌がむき出しになった沢に出た。
「ここ、ヤバいかも」
岩肌の崖を横切るように道がついている。
岩を削り取ったその道は、かろうじて足を置けるほどの奥行しかなく、踏み外せば、数メートル下の沢に転落。
足の骨を折る程度で済めばよいが、打ちどころによっては、命に関わる。
鉄の鎖が掛け渡されているが、安心しきって身を預けてはいけない。
いつメンテナンスされたのか、怪しいものだ。
ただ、最近、人が通った形跡はある。
靴跡がついていた。
「ミリッサ。シャツに虫、ついてる。取ったげよか」
「いらんことせんでええ」
「私? 平気やん、そんなん」
「オマエはぜんぜん心配しとらん。俺、俺に触るな」
「へえ。そんなもん? 虫取るだけやのに」
「いいから、集中させろ」
岩肌を回り込んだところに、少しスペースがあり、小さな祠が祭られてあった。
その背後に、横穴。
入口の上部に、狐掛風穴の文字。
やれ、着いた。
「うわ! 冷気が! 涼しー!」
「すごいね。風が吹き出してる!」
「中、めちゃ寒かったりして」
「へえ、これ見て。説明板」
「ふうん。狭い隙間が遠くのどこかに通じてるんだって。どこか未解明なんだって」
「へえ。だから風が吹くんかー」
入口は人一人通れる幅しかなかったが、中に入ると、意外なほど広い。
ただ、見通しは極端に悪い。
暗い上に、空間は入り組んでいる。
そして、気温はきっと一桁。
「うわ! 今のなに!」
「蝙蝠だろ」
「うわ! また来た!」
「熊とか、出てこないでしょうね」
「足元、滑りそう」
「懐中電灯、もっとでかいの持ってきたらよかった」
「げ、ここ降りるん?」
「頭、気をつけて。天井にぶつけても、手当できないよ」
「まだ、続くん?」
「寒いよー」
などと言いながら、登ったり下りたりを繰り返し、奥へと進む。




