表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/255

65 これが目的で誘ったんだな

「ミリッサ、あれ、なんと見た?」

「さあ」


 ようやく壷の外に出て、立ち入り禁止の柵を元通りにし、近くの木の下、暗がりに腰を下ろした。

 コロナという御仁も、少し離れて立っている。


「あの奥の穴は、人為的なものだ。とすれば、最近、というかここ数十年のうちに掘られたものだよな。それで土管を埋めた。目的はわからないけど」

「だよね。でもあの先の空間はなに?」

「知らん」

「根本道場」

「あ、そうか、そういう位置関係か。なるほど、防空壕に使ってた時に、なにか、アリの巣みたいな感じで、各石室を繋げようとしたのかな」

「そうやね」


 それで、ランの今夜の目的、ここの力が弱まっている理由、これは掴めたのだろうか。


「お館様に、これで報告できる?」

「そうやねぇ。まあ、そうなんだろうけど、なんかなぁ」

 と、歯切れが悪い。


「他の石室はどうだったんだ?」

「調べたよ。でも、こんな横穴があったのはここだけ」

「ふうん。間に合わず、終戦になったということかな」

「たぶん……」


 ランは、お館様への報告に物足りなさを感じている理由をこう話してくれた。



 太古に作られたこの石室群の構造が改変された。

 つまり、被っていた土が剥がれ落ち、巨石がむき出しになった。

 そして人為的に、その二つを繋ぐ横穴が新設された。

 これが、力の弱まった理由。

 でも、そんなことで?

 という疑問があるのだという。


 本来、根本道場や五つの狭い石室の中になにか、埋蔵されていた、あるいは祀られていたもの。

 これが持ち去られたからではないか、と言う。

 でも、それなら、力はすべて消滅するはず。

 弱まった、ことの理由にはならないのではないか。


 コロナが口を開いた。


「余計なものが入り込んだからではないか。人の気が充満している」


 なるほど。

 それはある。


「他の気も感じられるが、な」


 動物か、妖怪か。

 それが何かわかれば、お館様への報告ができるのだろう。


「一度はばっちり出会ったからしょっ引いたけど、まだ他のもいるみたい。でもさあ。それがなにか、わからないのよ。ミリッサ、なにか感じる?」


 妖怪に感じられないものを、ただの人間にわかるはずがない。

 しかも、今現在進行中のことではなく、過去のことかもしれないのだ。


 防空壕で死んだ市民、という言葉が出かかったが、その解はランもコロナも百も承知のことだろう。

 もっと力のあるなにか。

 太古の昔、ここに鎮められたものの力を弱めるほどの、力のあるなにか。

 そういう意味では、野良猫が住み着いた、というようなことでは絶対にない。


 稚拙なアイデアを出して、ランの顔を潰すわけにもいかない。


「ま、取り急ぎ、そういう報告をしようか」

 と、ランがコロナに言った。

「それはお主が決めること」

「そうやね」


 ランが立ち上がった。


「コロナどの、今夕はお手間をとらせ、申し訳ござらぬ。これにて、解散いたす。お館様へは私から報告に上がる。では」


 と、頭を下げた。

 コロナの姿が消えた。



「さあてと。ミリッサとのデート、久しぶり」

 服を丁寧にはたいている。

「もしかして、あの同伴喫茶以来だったりして」

 目の下の二つほくろは極大に。

「ま、ここもなかなかムードあるやん」


 ふう!

 なんでこうなる!

 さては、意見を聞きたかったわけじゃなく、これが目的で誘ったんだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ