65 これが目的で誘ったんだな
「ミリッサ、あれ、なんと見た?」
「さあ」
ようやく壷の外に出て、立ち入り禁止の柵を元通りにし、近くの木の下、暗がりに腰を下ろした。
コロナという御仁も、少し離れて立っている。
「あの奥の穴は、人為的なものだ。とすれば、最近、というかここ数十年のうちに掘られたものだよな。それで土管を埋めた。目的はわからないけど」
「だよね。でもあの先の空間はなに?」
「知らん」
「根本道場」
「あ、そうか、そういう位置関係か。なるほど、防空壕に使ってた時に、なにか、アリの巣みたいな感じで、各石室を繋げようとしたのかな」
「そうやね」
それで、ランの今夜の目的、ここの力が弱まっている理由、これは掴めたのだろうか。
「お館様に、これで報告できる?」
「そうやねぇ。まあ、そうなんだろうけど、なんかなぁ」
と、歯切れが悪い。
「他の石室はどうだったんだ?」
「調べたよ。でも、こんな横穴があったのはここだけ」
「ふうん。間に合わず、終戦になったということかな」
「たぶん……」
ランは、お館様への報告に物足りなさを感じている理由をこう話してくれた。
太古に作られたこの石室群の構造が改変された。
つまり、被っていた土が剥がれ落ち、巨石がむき出しになった。
そして人為的に、その二つを繋ぐ横穴が新設された。
これが、力の弱まった理由。
でも、そんなことで?
という疑問があるのだという。
本来、根本道場や五つの狭い石室の中になにか、埋蔵されていた、あるいは祀られていたもの。
これが持ち去られたからではないか、と言う。
でも、それなら、力はすべて消滅するはず。
弱まった、ことの理由にはならないのではないか。
コロナが口を開いた。
「余計なものが入り込んだからではないか。人の気が充満している」
なるほど。
それはある。
「他の気も感じられるが、な」
動物か、妖怪か。
それが何かわかれば、お館様への報告ができるのだろう。
「一度はばっちり出会ったからしょっ引いたけど、まだ他のもいるみたい。でもさあ。それがなにか、わからないのよ。ミリッサ、なにか感じる?」
妖怪に感じられないものを、ただの人間にわかるはずがない。
しかも、今現在進行中のことではなく、過去のことかもしれないのだ。
防空壕で死んだ市民、という言葉が出かかったが、その解はランもコロナも百も承知のことだろう。
もっと力のあるなにか。
太古の昔、ここに鎮められたものの力を弱めるほどの、力のあるなにか。
そういう意味では、野良猫が住み着いた、というようなことでは絶対にない。
稚拙なアイデアを出して、ランの顔を潰すわけにもいかない。
「ま、取り急ぎ、そういう報告をしようか」
と、ランがコロナに言った。
「それはお主が決めること」
「そうやね」
ランが立ち上がった。
「コロナどの、今夕はお手間をとらせ、申し訳ござらぬ。これにて、解散いたす。お館様へは私から報告に上がる。では」
と、頭を下げた。
コロナの姿が消えた。
「さあてと。ミリッサとのデート、久しぶり」
服を丁寧にはたいている。
「もしかして、あの同伴喫茶以来だったりして」
目の下の二つほくろは極大に。
「ま、ここもなかなかムードあるやん」
ふう!
なんでこうなる!
さては、意見を聞きたかったわけじゃなく、これが目的で誘ったんだな。




