62 答えを出すのは私
母は私の考えに賛同してくれています。
母は祖父の娘ですが、父が、その……、なんていいますか。
そんな面倒なことをして、あえてリスクを負うことはないんじゃないか。
つまり、今のままでいい、と言うんです。
もともと、この土地、父のものじゃない。
実は、母のものでもないんです。
村の共有財産。
うちの家系が代々お守りをしてきただけ。
私、正直言って、困るんです。
一人っ子ですし、ここを相続することになったときのことを考えると。
共有って一言で言いますけど、実は、共有者は膨大な人数。
ちなみに、江戸時代の地図には、伏龍と書いてあります。
伏龍が地名、つまり村の名前なのか、ここに祭られている方の名前なのか、わかりません。
しかし、戦前まで、この地域は伏竜村と呼ばれていました。ちょっと字は違いますけどね。
法務局に行って調べました。
そしたら、所有者として八十二人の名前がありました。
曽祖父の名前もありました。
つまり、戦前の記録です。
その子孫の数たるや。
それに、村は完全に消え、誰が元村人の子孫で、出て行った村人の子孫が今どこにいて、なんて、現実的に追いかけることはできません。
なのに、うちの家が、嘘っぱちで金もうけをしている。
苦々しく思っている村人の子孫がいてもおかしくありません。
実際、私が卒業して、ここの経営にタッチするようになった時、こんな話を母から聞きました。
気をつけなさい。
恨んでいる人もいるから。
どういうことかと言いますと、伏竜村の人たち、大金持ちになった人、たくさんいるみたいです。
不動産屋や市に土地を売って。
区画整理もされましたし。
その時、この土地、気場ですね、も売ってくれという話が方々から来たそうなんです。
ところが、うちの祖父が大反対して。
村の財産は売れんとか言って。
でも、はたから見れば、勝手に塀を作って金儲けして、と思われても仕方がないんですよ。
元から共有財産以外に大きな土地を持っていた人は、いいです。
でも、わずかしか土地を持ってなかった人は、村の中でも立場は弱かったでしょうし、いわば、買い叩かれたような人もいたはずです。
そんな人から見れば、うちの家は恨みの対象になったと思うんです。
実際、このあたりの地主でしたから。
母も父も亡くなった後、私が巡礼のようにハンコもらって歩く、というのは絶対にできないし、耐えられない、と思うんです。
そうなるかどうかはわかりません。
もしかすると、いい法律なんかができて、ラクチンに、ということになるかもしれませんし。
まだ先のことかもしれませんけど。
でも、数年先かもしれない。
先生。
お気づきになりました?
母は、かなり弱っています。
いろいろ心労が重なって。
私には、その心労の理由を話してくれませんけど。
父が原因だとは思っているんですけど。
ココミクの長い話が終わった。
「ということなんです。すみません、一方的にしゃべってしまって」
返す言葉は、すぐには出てこなかった。
「それで、私、どうしたらいいのか、先生なら、どう思われるかなって」
そうなのか……。
天を仰いだ。
簡単に答を出せる話ではない。
「いえ、違いますよね。答えを出すのは私。先生ならきっとそうおっしゃいますよね」
なにか、言わねば。
悩ましい問題だな。
そんなありきたりな言葉しか浮かんでこない。
それに、もうランが来る時間だ。
なんとかいう、お偉い方を引き連れて。
本当に申し訳ないが、ここは、ココミクに何としてでも立ち去ってもらわねば。
「考えてみとくよ。数日、時間くれる? 出口はわかってるから」
と言わざるを得なかった。
考えてみておく、と言ったからには、実際、考えておかねば。
ただ、一応、確認はしておこう。
「今の話、ヨウドウに言ってもいいか?」
「ええ、もちろん。今度来られるときは、母も一緒に。父抜きで」
「そうする」




