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60 防犯カメラ、つけなくていいんです

 餃子屋さんで一人、夕食を摂り、コンビニで夜食や飲み物を買い求めて、ペンタゴンに向かった。

 ランとの待ち合わせ時刻までまだ間がある。園内を見て回っておこう。



 受付の前の料金表を改めて眺めた。

 開門、午後六時、入場締め切り二十一時零分、退場は翌日の午前七時まで、とある。

 二時間いようが、フルで一晩いようが、同価格だ。

 閉門以降、出ていくのは自由。


 園内マップには、汚れて読みにくいが、入場口一か所以外に、二か所、出口とマーキングされている。

 先日通ったカチャンカチャンの回転ドアのことだ。


 特別入場、予約もOK。

 つまり根本道場にただ一人、籠る人向けの注意事項。

 必ず、お一人のみ。お連れ様とご一緒にお過ごしいただくことはできません。

 食事・軽食・菓子類持ち込み禁止。飲料のみ持ち込み可能。

 もちろん禁酒、禁煙。


 特別入場と一般入場の共通注意事項は、ありきたりな内容。

 いわば、常識人としてのマナーを守れ、という内容。

 そしてコインロッカーの案内。



 今、午後八時。頃合いの時間。

 受付付近に客はいない。

 がらんとしてうら寂しい。

 入場締め切り間近だからだろうか。



「先生!」


 あれ?

 ココミクが受付から飛び出してきた。

「用事、済んだんですか?」


 先ほどとは別人のように、明るい声をあげた。


「え、と、入場されるんですか?」

「そう」

「じゃ、案内しましょう」

「ありがとう。でも、いいよ。一人でゆっくり回るから。前に案内してもらったし」

「あ、でも、もう少しお話が」


 それはそうだろう。

 先ほどの話では、きっと不完全燃焼に違いない。


「でも、いいのか? ここ、離れて」



 大丈夫だというので、園内を散策しながら、話を聞くことにした。


 中に入って、驚いた。

 混雑というほどではないが、先日よりかなり客は多い。

 一人より、カップルが目立つ。


「日によって、バラつきがあるんですよ。よくわからないんですけど、縁起担ぎをする人が多いみたいで。どうせならラッキーデーに、ってことなんでしょうけど」


 パワースポットで力を得たい人が、縁起担ぎをするのも違う気がするが、ちょっとした遊びと捉えている客が多いということだろう。



 夜間巡回中の男性を見かけた。

 確か、ファルコンという名。

 例によって、リュックを肩にかけ、ゆったりと歩いている。

 こちらに気づいて、会釈を寄こしてきた。


「あの人、本当に助かってるんです」


 ココミクが手招きする。


「清掃も植栽の管理も、一手に引き受けてくれてます。リュックの中に大工道具一式入ってて、傷んだところも都度、直してくれてます」

「巡回、トラブル処理、そして清掃、営繕、なんでもできる人、助かるよね」

「そうなんですよ。十年以上前から来てくれてますので、中のこと、私より隅から隅まで理解されてて。閉鎖中のところも毎晩、きちんと手を抜かずに見て回ってくれます」


「こんにちわ」

「……」


 社交的ではないのだろう。

 ビジネスマナーにも無頓着。

 ムスとして、軽く頭を下げただけ。

 

「この人がいてくれますから、防犯カメラ、つけなくていいんです。さすがにここに防犯カメラ、無粋すぎますでしょ」

「なるほどね。でも、深夜中、巡回?」

「いいえ。そこまではさすがに。午前一時まで。朝は別の人にお願いしてます」


 なるほど、家族経営でも、それなりに人件費はかかるわけだ。


 結局、声を聞かせてくれることなく、濃紺のユニフォームは闇に溶けていった。

 ここの従業員、どうも愛想はよくない。


 さあ、ココミクの悩みを聞いてあげよう。

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