59 電話じゃアレだから
ジンには、別の気がかりもあるらしい。
「シュウなんだけど、やっぱりまだ学校に来ないんだ。競馬場にも来てなかったし」
秋学期始まって二週間。
心配ではあろうが、理由は様々に考えられる。
確かに連絡がつかないのは、気にはかかるが。
シュウ。
ジンやアイボリーと同学年だが、こう言ってはジンに悪いが、大人の女性。
まじめでしっかり者、言うべきことははっきり口にするアイボリーに、年齢を五つ加えたような感じ。
昨年、競馬サークルを覗いてくれたことがある。
しかし、馬券を買うことを前提とすると知って、入部はしなかった。
競馬場では、望遠レンズ付きの大きな一眼レフを抱えた姿をたびたび目にする。
学校ではもちろん、競馬場でも、会えば必ずきちんと挨拶をしてくれる気持ちのいい学生だ。
根拠はないが、大丈夫なのでは?
しかし、ジンの心配に少しは反応してあげねば。
「最後に会ったん、いつ?」
「夏休み前」
「なにか、言ってなかった?」
ジンの答えに、背中がビリリとした。
「上町ペンタゴンに行ってみたいって。だからボクも、あの時、興味があって」
「そうだったのか……」
「なんか、変な気分がしてきて。クワッチーサビラさんのこともあるし」
「……そうか……」
「それもあるから、ブルーの頼みも、なんか、気になって」
楽観論は吹き飛んでしまった。
シュウは上町ペンタゴンに行ったのか。
それさえわからなければ、いや、分かったとしても、できることはないのだが。
シュウの実家に聞いてみるしか。
しかし、大学が学生の実家の連絡先を教えてくれるだろうか。
何とかジンを励まさねば。
「電話じゃアレだから、今度会った時に、話、しよか」
なんだろう。
この妙な感じ。
クワッチーサビラ、イオ、サリ、と来て、とうとう在学生のシュウまでも。
全部に取り組むことはできないぞ。
優先順位をつけなくてはいけないかも。
ジンはどうするつもりだろう。




