58 自信なくなってきて
「ジン。さっきはごめん。打ち合わせ中だったから。で、どうした?」
「すみません。打ち合わせ中」
「いいよ。終わったから」
「今、どこにいます? 会って話せたら、って思って」
「んっと」
「あ、迷惑ですよね」
「ちょっとな」
ジンの声はどことなく、頼りなげだ。
会ってやりたいが、今はだめだ。
万一、ランとの待ち合わせになだれ込む、ということになっては困る。
ジンはランが猫妖怪だと知ってはいるし、お館様にさえ会っている。
それはいいが、ランの任務、これは知られるわけにはいかないだろう。
それに、ランがどう思うか。
私と会った後にジンと会ってたの! と勘違いされること間違いなし。
「悪いけど、電話で頼む」
「うん」
あの進め方でよかったかな、と思って。
フウカ先輩みたいにしっかり部長じゃないから。
押し付けになったらいけないし。
かといって、ブルーのお願いを無下にもできないし。
「ジン。君はうまくやってると思うよ。フウカとはまた違ったやり方でね」
そう。
こういう話はむつかしい。
サークル活動とは別次元のテーマ。
しかも、見ず知らずの人の自殺理由を掘り起こそうというのだから。
「そうかなぁ……。でも」
「でも、なんだ?」
「自信なくなってきて」
まあ、自信もなくなるだろ。
時として、孤独も感じるだろ。
でも、それに耐え、乗り越えるのがリーダー。
そうやって、道を指し示すからリーダー。
「ジン。君は、ちゃんと自分で考えて方向性を示した。立派なリーダーだよ。たとえそれが受け入れられなくても、だ。みんなに提案した。それこそ、部長の役割だよ」
「そう言ってくれるとうれしいんだけど……」
「自信を持て。来週、どんな結論になろうともね」
でも、、、、嫌な話も耳にして……。
あ、でも、やめておく。
陰口になるから。
なるほど、そういうことか。
三年生の誰かが、愚痴ったのか、あの提案をバカにしたのか、そういうことだろう。
でも、ジンがこれほど落ち込むとは。
後輩とはいえ、年齢はバラバラ。
ジンより年上もいるかもしれない。
三十も過ぎて会社でそれなりの仕事をしていれば、年齢など、関係なくなるが、学生の間はまだ年齢へのこだわりは強い。
しかも競馬サークルR&Hは、学年による先輩後輩の区別なし、を旨とし、フラットな関係をよし、としている。
そんなことも影響しているのかもしれない。
しかし、誰が、どんな、と聞くつもりはない。
ジン自身が乗り越えていくべきこと。
講師が助太刀するのは逆効果。
身に染みている。
「ちょっと力みすぎてるんじゃないかな。力むと余計に力、出ないし、周りもついていけないって思いだす」
「そかー、そかー。やっぱり。そうだよね」




