56 課題が何なのか、聞きに来ただけ
ココミクの実家にいた。
「すみません。急に押しかけてきて」
「いいえ! 来てくださって、ありがとうございます!」
ココミクの頼みがそのままになっている。
ペンタゴンを何とかしなくてはいけない段階に来ている。相談に乗ってほしい。
という、あまり興味のない課題。
急遽、連絡を入れて、なかば無理やり、今日、行くよ、と言ったのだった。
幸いかどうかわからないが、エヌケイビーとヤタブーも同席している。
もちろん、ランとの約束のついで。
面倒ごとは、チョンチョンと、一気に済ましておくに限る。
ランとの約束は、午後九時。
それまでにペンタゴンに入っておく、と手筈は決めてある。
「ココミク、じゃ早速、話の続き、聞こうか」
「あ、いえ。その前に、お食事を」
「え、あ、すみません。お食事時に押しかけてきて」
「いいじゃないか。気にするな。メシ、食べながら話そう」
とエヌケイビーが、ビールを出してこようとする。
「すまん。メシは済ませてきた」
まだ五時過ぎ。
食事をしてきたには早すぎるが、とっさの嘘。
食事時の微妙な時刻にならないよう、ランと別れてからスッ飛んできたのだ。
「ま、いいじゃないか。来るってんで俺も慌てて帰ってきたんだ」
さっ、とココミクが父親の顔を見た。
ふむ。
どうも、実際は違うんだな。
「いやいや、どちらにしろ食事は遠慮するよ」
「そうかぁ。じゃ、ま、ビールとつまみだけでも」
「すまん」
エヌケイビーが、場を仕切ろうとする。
家長として、それでいいのかもしれないが、少し気になってきた。
家族経営と聞いている。
つまり、家族共通の課題だと思っていたが、早とちりかもしれない。
ココミクの表情が固い。
しかし、もう後には引けない。
二人きりで話したいとはココミクも言っていなかったわけだし。
「娘が世話になった。いろいろ、大学では。改めてお礼を言うよ」
「なんの」
「競馬サークル。そこでも世話になったそうじゃないか」
「いや、娘さんの熱意に押されただけのこと」
「ハハ。熱意か。それ、僕にも言えるんだよな。すっかり嵌っちまった」
「ほう! そうか。京都競馬場にも行くのか?」
「ああ、土日は毎週行くぞ」
「ハハ。あんまり金、つぎ込むなよ。遊びなんだから」
「まあな」
途端にエヌケイビーの目が泳いだ。
いかんな。
ギャンブルとして競馬を見ているな、こいつ。
エヌケイビーはすぐさま、話を変えてきた。
「それに、娘から相談に乗ってほしいと言い出したそうだな。わざわざ来てくれて、頭が下がるよ。ありがとう」
「いや、まだ何もしてないさ。とりあえず、その課題が何なのか、聞きに来ただけ」
改めてココミクの顔を見た。
さあ、話してくれ。
君の思うことを。




