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48 バカじゃない、信じられない、へたっぴ

 全レース終了後のミーティング。

 サークルのOBルリイアが借りている近くのマンションで集まるのが恒例。

 競馬場のフードコートは、全レース終了後、すぐに閉まってしまうので都合が悪い。

 参加は強制ではないが、フウカとメイメイ以外は全員参加するようだ。



 京阪淀駅の前を通り過ぎ、整然とした月極駐輪場の中を近道。昔、公設市場のあった商店街の名残のような入り組んだ街並みに入った。


「ガリさん、ありがとう。参加してくれて」

「先生、ありがとうは違うと思いますよ。だって、私も一部員、のつもり」


 ミーティングへのガリの参加は、今日が初めて。

 確かに、ガリは一部員。

 昨年暮れ、ガリから打診があったのだ。参加してもいいかと。

 職員が部員になれるかどうかを、大学当局に確かめる面倒を嫌って、副顧問ということにしてある。

 もちろん、大学に提出した書類にガリの名はない。

 あくまで任意参加。



 燃料、仏壇、着物仕立直し、古本と書かれた看板を過ぎ、質と染め抜かれた大きな暖簾の隣に、そこそこ新しそうな小ぶりなマンションが建っている。


 ジンが話している。

「ルリイア先輩も、できるだけ早く帰るって」


 一昨年卒業した元サークルメンバーであり、京都競馬場職員であるルリイアの住むマンション。

 卒業後も、ミーティングに使ってくれたらいいと、部屋の鍵を預けてくれている。

 ルリイアも終業後、遅れて参加してくれることもあったが、ミーティング自体が早く終わってしまうため、実質的にほぼ不参加。

 いてくれるだけで頼もしい、そして皆から慕われる存在だ。




 買い目をその理由とともに、簡単に報告する、これだけがミーティングのルール。

 なんとなくいい馬体だと思って、という理由でもアリだ。

 理論や理屈をひねくり回しても、後の祭りであれば得るものはない。


「ね、アイボリー、十二レースの一着馬、どうして本命に?」

「馬体重、私の誕生日と同じ」

「え、それ、誰にも言っちゃだめだよ。でも、それだけ?」

「ダメ?」

「いいんじゃない」

 というわけだ。



 三階の1LDK。

 リビングダイニングも狭い。

 全員が座るソファはないし、ダイニングにしたって二人用。

 おのずとテーブルを脇へ寄せ、床に座ることになる。


 今夜も、顧問は特別待遇。ソファの背にもたれて座る。

 他の席順は無礼講。

 ジンとアイボリーがキッチンカウンターの下に、三年生五人とガリがリビングに散らばって、という着座となった。


 それぞれ、今日の結果を報告していく。

 進行は部長であるジン。


 窓から、競馬場が見える。

 もう数階高ければ、レースの様子も見えるかもしれない。

 今は、競馬場内のプチカジノ、ポーハーハー・ワイの賑やかな明かりがスタンドに反射しているのが見えるだけだ。

 いつ帰ってくるかわからないルリイアを待つことはしない。



「じゃ、おさらいをします」

 的中馬券の考察である。

 それが済めば、各自の勝負レースの結果報告。


 済んだことに時間をかけてもしかたがない。

 おおむね十五分もあれば終わってしまう。

 とはいえ、これを学食での部活でするわけにはいかない。

 賭けた、勝った負けたと、他の学生や職員がいる中ではしゃぐわけにはいかない。

 その意味でも、このルリイアの部屋はありがたかった。



「今日はガリさんが来てくださってます。せっかくなので、ガリさんから一言」

「あら、さっきミリッサ先生にも言ったんですけど、私も部員の一人。皆さんと同じように扱ってくれるかしら」

「いえいえいえいえ」

「じゃ、勝手に報告するわね。今日の私の勝ち負けは」

 と、話し出す。


 部員同士の報告では、バカじゃない、信じられない、へたっぴ、などとヤジも飛ぶが、ガリ相手では、黙って聞くのみ。

 うわ、さすがですね! と称えるタイミングがあって、胸をなでおろした。



「はい。みんな、お疲れさま。ミーティングは終わり」

 ジンが閉会宣言をした。


 ブルータグの申し出をどうするのだろうと黙っていると、ジンと目が合った。

 君のやりたいように、と目で伝えたつもり。


「でも、もうちょっとみんな、時間くれるかな」


 そうか。

 何らかの取り組みをしようとしているのか。

 内容によってはガリの反応が気になるが、出たとこ勝負。


 それとも、歩いてビワイチに誘うつもりか?

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