47 その筋からトライしてみる
神戸新聞杯。
菊花賞トライアル、京都芝2400メートル。
本日のメインレース。
「わわー、メイメイ、お久しぶりー」
「わお! フウカ先輩!」
「みんな元気? ごめん、パドック見れてない。このレースだけ参戦しに来た」
「わざわざ?」
「ちょっとね。ミリッサ先生に話があるから」
「なんだ。そういうこと。メイメイは?」
「私も。でも、どうしようかな。フウカ先輩の話が長くなるようだったら、日を改めようかな」
「一緒にしたらいいじゃない」
「そうはいかないよ」
「ええっ、秘密の話? ね、ね、ミーティング、参加する?」
「ごめん、ジン。十二レースまで見たら、すぐ帰る」
「同じく」
「なんだあ。前みたいに、一緒に反省会、したかったのに」
「さ、レース、始まるわよ。集中集中」
レースそのものは、平凡なレースになった。
一番人気から人気順に入線。
三連単五百円少々の超低配当。
サークルメンバーに三連単を購入した者はいない。
その他馬券で的中した者も、取って損くんとなって浮かぬ顔。
ガリの三連複の三枚が唯一ぎりぎりのプラス。
まあ、競馬とはこういうものだ。
では、十二レースのパドックはチラ見にして、二人の話を聞こう。
ブルータグとピンクタグにも警察にどんな話をしたのか聞いておきたいが、それはミーティング時にすればいい。
まずはメイメイだな。
フウカの話はきっと長くなる。
メイメイの話は、予想通り、簡単だった。
「報告します」
「いらん」
「そう言わずに」
「いらんいらん」
「もう! 昨夜の話、決着しました。一気呵成に攻め立てる。最終的に、カニの総帥キー・イーを捕らえ、パクチー汁を飲ませる」
「ふうん」
「私の読みでは、この先数週間で、抗争終結」
「そりゃ、いいな。これ以上人が殺されることはなくなるし、PH界にも平穏が戻る。メイメイにも再々会えるというオマケつき」
「ですね。きっと、やり遂げます」
よほどうれしいのか、メイメイは、
「ご助言、ありがとうございました!」
と、直立して頭を下げた。
「大げさな」
「あ、フウカ先輩が待ってますね。騎手変更、しますね」
「すまんな。メイメイとももっと話したかったのに」
「そんなうれしいこと、言うようになったんですね」
「茶化すな」
「思い出します。去年はいろんなところで話しましたね。お宮さんとか、淀川の堤防とか。もちろん学校の帰り道でも」
「ああ、楽しかったな」
「今だから言える、ってとこですね」
「そういうこと」
メイメイがフウカとハイタッチしている。
交代だ。
遠くでジンが振り返って、大きく手を振っている。
振り返すと、早くこっちに来て、というジェスチャー。
まあまあ、もうちょっと待ってろ。
十二レースのスタートまでには終わるようにするから。
愚痴を言いたいんじゃないんです。
フウカの第一声だ。
警察が調べてるんですけど、まだわからないらしくて。
所在が分からない、ということは、GPSを切ってるってことですし。
あるいは、全然次元の違うところにいるかもしれないってことですし。
次元の違うところ、つまりは妖怪村だ。
そうとは、フウカは言わなかったが、やはり。
それで、ランに聞いたら、わかるかもって。
でもラン、電話しても、出ないし。
他の連絡方法、私、ないし。
先生なら、って。
「なるほど」
「ランに伝えてくれませんか。あるいは、私からランに」
「そのサリって上司、どうしても見つけたい?」
「はい」
「どうして?」
そのままいなくなってしまっても、フウカにとって、利はあれど損はないのでは?
「安心したいんです」
「安心?」
「はい。なんとなく、なんとなくなんですけど、胸騒ぎがして」
死んでいるのかも、とまでは言わなかったが、そう考えているのかもしれない。
でないと、憎っくき上司をここまで心配することはない。
「私が原因で、あの人に万一のことがあったら」
「そうか……」
たこ焼き居酒屋の店主が自殺。
フウカの上司も自殺。
そんな連関はあり得ないが、あり得ないからこそ調べておく、のがいいかもしれない。
フウカのために。
「わかった。ランに連絡してみるよ。と言っても、俺もランの連絡方法、ないけどな」
「でも」
「うん。その筋からトライしてみる」
「よかった。お願いします。ありがとうございます」




