44 まだ復学できる状況じゃない?
メイメイからも電話があった。
「会っていただけませんでしょうか。お話したいことがあって」
いつもらしからぬ言葉遣い。
「いいよ」
「じゃ、伺います」
え、あ、という間に電話を切られてしまった。
メイメイはすぐにやってきた。
梅田に出てきていたのだという。
玄関先で靴を揃える小柄な背中。
先ほどの言葉遣い同様、どこかいつもと違う様子。
久しぶりに会うからかもしれない。
「疲れてるみたいだな」
「そうですか? まあ、先生がそう言うんだったら、そうかもしれません」
打ち合わせテーブル兼食卓に向かい合って座った。
「変わってませんね」
「あれ? 来たことないんじゃ」
「いいえ。入らせてもらいましたよ。ほら、あの時」
「あの時?」
「先生が曽根崎警察に囚われてる時。ここでハルニナやヨウドウ先生と相談したんです」
「へえ。そうだったのか」
ん?
でも、鍵は?
「あの時、バッグ、忘れて行かれたでしょ」
知らなかった。
自分の知らないところで、いろいろ苦労をかけていたわけだ。
「晩御飯、済まされました?」
「あ、忘れてた」
「ご飯、食べ忘れるほど大事な仕事、ありますよね。そんなこともあるかと」
と、バッグから握り寿司のパックを取り出した。
「余ったら冷蔵庫に。明日朝にでも食べてもらったらいいし」
「余らないよ。気づいたら腹ペコ。今日、ビワイチに行ったんだ。歩いた歩いた」
「フフ。そっちですか」
「食べながら聞く、でいいかな?」
「もちろん。私も、あんまりゆっくりできないし」
「じゃ、お茶沸かす。お寿司なら熱い日本茶でなくちゃな」
「私が」
相変わらず、メイメイは忙しそうだ。
普通の市民には想像もできないところに身を置き、命に係わる内部抗争真っただ中。
その中心人物のひとり、渦中の人だ。
小さな体に秘められたパワーとバイタリティ。
見かけによらず、強い心を持つ女性。
ハルニナの親衛隊長として多忙な日々を送る。
さすがに大学生との両立ができなくなり、現在、四年生のまま、休学中。
「まだ復学できる状況じゃないか?」
「すみません。まだ無理みたいです」
ジンやアイボリーと同級生だが、いくつか年上だし、ハイライトが当たることを好むタイプではない。群れるタイプでもない。だが、黙っている時の存在感はジンを上回る。
「ジンらとたまに連絡とか、してる?」
「時々、電話くれるんですけど、冷たいって思われてるかも」
と、言いながら、メイメイが気にするはずがない。
自立した大人の女性。
「競馬にも来ないし」
「毎週、ちょっとだけでも顔出そうと思ってるんですけど、なかなか」
メイメイがしてくれた話は、サークルのことではなく、学校のことでもなかった。
PHの話。
その抗争の状況。
あまり興味はないし、関係もない。




