43 上司への不満?
フウカからも連絡があった。
競馬サークルR&H前部長。
今春、傾聴財団に入社している。
「先生。ご無沙汰しています」
「おう。元気にしてるか」
フウカから連絡を受けるのは、卒業以来初めてである。
「ご相談したいことがあって」
「いいよ、いつでも」
「あ、会っていただけますか。うれしいです」
「もちろん。どうせ、電話で済むような話じゃないんだろ」
最初の一言以降、フウカの声は沈んでいる。
楽しい話でないことは、声のトーンからわかる。
それなら、会って話さなければ、彼女の真意は受け取れないだろう。
「でも、どのジャンルの話か、触りだけでも教えてくれる?」
心づもりというものがある。
誰かを同席させる配慮も必要かもしれない。
なにしろ、昨秋、フウカとの関係は捻じれに捻じれ、結果的に彼女にはとても悲しい思いをさせてしまったのだから。
ここはきちんと接してあげなければ。
たとえもう卒業していった学生だとしても。
「ありがとうございます。ジャンルとか、触りというのも変なんですが」
フウカが語ってくれた話は、ある意味、肩透かしだった。
上司と馬が合わなくて。
程度が低いんです。
能力も考え方も。
それで、会社に出てこなくなって、上からは、私のせいだと言われていまして。
なんだ。
上司への不満か。
そんな話、聞きたくもない。
フウカらしくない。
確かに、フウカの責任感の強さは折り紙付きだ。
当然、頭もいい。
人あしらいもうまい。まとめ上げる力もある。
R&Hの部長として、メンバーを見事に引っ張ってくれた。
ジンとはまた違うスタイル。
ジンは友情タイプだが、フウカはカリスマタイプ。
そのフウカが、上司への不満を愚痴として聞いてほしいというのか。
はっきり言って、がっかりした。
天下り集団の財団に就職して、君まで腐ってしまったのか、とさえ思った。
しかし、次のフウカの言葉に、ピクリとした。
「どうも、行方不明になってるそうなんです」
んんっ?
上司の名はサリ。
会社から警察に、サリの所在を照会したらしい。
だが、かなりの日数が経つのに、掴めないという。
「それで、私、責任を感じるというのではないんですけど、本当に困ってしまって」
そういうことだったのか。
でも、警察に任せておけばいいのでは?
俺は役に立てそうにない。
しかし、会って、話は聞こう。
「どこで会う?」
「競馬場の部活、次はいつですか?」




