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40 三個集まっても、結局、ちっちゃい音

 JR琵琶湖線敦賀行新快速。

 土曜日だ。勤め人や学生の姿はなく、列車は堅田を過ぎてからは閑散としている。

 琵琶湖が見える側に、比良山系が見える側にと席を移動し、素敵なプチ旅行気分。


 ジンは相変わらずの軽装。

 さすがにへそ出しルックではなくTシャツだが、下はやはりショートパンツ。

 焼けるかも、と今さら心配している。

 アイボリーはと言えば、こちらもTシャツ。下は白いデニムだ。

 二人とも、楽しくてしょうがないという顔。


 近江今津駅で切り離しのため十五分停車。

 サンダーバード号が追い抜かしていった。


 ほら、これ、どう?

 昨日、百均で買った。

 とジンが見せてくれた鈴。

 こんなちっちゃいのしか売ってなかったから、三個まとめて、と鳴らしてくれる。

 ちっちゃい鈴が三個集まっても、結局、ちっちゃい音しか鳴らないんだね。

 クマ、これで気づいてくれるかな。

 私は、ほらこれ。

 アイボリーは、ヨウドウのを借りてきたという。

 そういや、ヨウドウ、高校時代はラグビー部やりながら、ワンゲル部にも顔出してたな。



 近江塩津駅に到着。

 午前九時前。頃合いの時刻だ。

 ここが北陸線と湖西線の接点となる駅。この先はもう日本海側。

 今回のビワイチ。琵琶湖最北端の駅から時計回りに歩き始める。


 蕎麦屋さんを思わせる風情たっぷりの駅舎。

 いつのことになるかわからないが、琵琶湖一周後、またこの駅に帰ってくる。

 そう思うと、強烈に親しみが湧いてくる。


 この旅のために、スニーカーを新調している。

 クッション性がよくて、幅広のやつ。

 格好はドテッとしているが、機能性重視。

 その赤い靴紐を締め直し、さあ、ビワイチBYウォーク、スタートだ。


 静かに胸が高鳴ってきた。

 その第一歩。

 坂を下って、国道に。

 少し先に進むと、遠く、奥琵琶湖の湖面が朝の光を照り返し、輝いていた。


 計算上、一周、二百七十から三百二十キロほど。

 十四回か十五回の行程。

 できるだけ毎週行って、来年の花見は海津大崎で、というつもり。

 期待に胸が膨らむ。


 早く湖岸に行きつきたい。

 国道は狭いわりに車の交通量が多く、危険だし、騒音。

 しかも、暑い。

 琵琶湖最北端の浜辺はまだか。




「ねえ、ミリッサ。時々、思うんだ。覚えてる? ボクの三四郎」

「もちろん。俺の恩人の一人」

「そうかもね」


「もう、ペットロボットはやらない?」

「まあね」


 それはそうかもしれない。

 なにしろ、ジンのトカゲ形ペットロボットには、妖怪がとり憑いていたのだから。


 ペットロボットの人工知能が暴走して、という話をよく聞く。

 その暴走を、快く思う人もいる。

 言うことを聞かなくなる、勝手な行動をする、ということだが、それを、生きている感じがして、と喜ぶ人もいるわけだ。

 しかし、ジンは知ってしまった。

 妖怪が自分の身の入れ物としてペットロボットを選ぶこともある、ということを。

 そう知ってしまったからには、もう、ロボットとの会話を楽しむ心境にはなれない。


「三四郎、どうしてるかなって」


 ランに譲ってしまったという。


「あまり考えずに、あげちゃったけど、失敗したかなって」

「惜しくなった?」

「ううん、違うよ。ランはかわいがってくれると思うから」

「じゃ?」

「初期化してデータはすべて消した。でも、もし、もしだよ。まだ妖怪が住み着いてて、消したつもりのボクの個人情報、消えてないんじゃないかなって。ま、ランだから別にいいんだけど」

「ホント、あれには驚いたよね。ランが三四郎に妖怪をとり憑かせてたなんてね」

「用が済んだから、ランは、妖怪を引き上げさせてたはずだよ」

「だよね」

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