39 声って、いくつになっても変わらない
その夜、大阪府警の幹部、ヴォルガに会った。
ヨウドウも一緒だ。
高校の、いわば、プチ同窓会。
「困っちゃった。だれかわからなかったし」
大阪梅田、グランフロントのカフェテラス。
フレンチカントリーなフェンスで仕切られたテラス。
目の前を多くの人が通り過ぎる席。
「伝言では、高校の同級生、というんだけど、正直、名前聞いてもピンと来なくて」
「だろうな。高校の時も、あまり話したこと、なかったかもしれないしね」
「そうかもね。ちょっとびっくり」
ヴォルガが言うように、高校時代、一年間は同じクラスだったが、さして親しかったわけではない。
女子ラグビー部の部長をしていて、運動音痴の自分にしてみれば少し近寄りがたかったし、その体格や性格がまぶしくもあった。
だから、男子ラグビー部のヨウドウを誘ったのだが、これが功を奏したようだ。
二つ返事で、今日会う約束をしてくれたのだった。
ヴォルガは、ピザが運ばれてくるなり、切り分けようとしている。
「貸して。俺が」
「そう?」
「そういうのは男の役。特に、レディーを前にしたときには」
「へえ。ヨウドウ君、意外」
三十数年ぶりに会ったヴォルガは別人のようだった。
色黒を派手めな化粧で隠している。その下に、面影さえあるようでないような。
こんなに丸顔の子だったろうか。
しかし、この声。
学校の廊下で、運動場で、食堂で、そして教室で、いつも響いていたこの声。
声って、いくつになっても変わらない。
「用件は捜査状況を話せということね。最初に断っておくけど、言えないわ」
「だろうな、でも」
「いいのよ、ミリッサ君。全部言わなくても。支障のないことは、支障がないんだし、どんなことまで話せるかは、私の判断に任せる、ということであれば」
「ありがたい。それで十分だよ」
「わかった。でも、その前に、近況報告、なんかしない? 私、同窓会、全然参加してないし」
「だな」
「私から、でいい?」
「どうぞ」
警察学校から大阪府警に勤務するようになって十年、交通婦警などをしていたが、マンネリだな、と思い始めたころ、アメリカの研修生募集があった。
それに飛びついた。
アメリカで、向こうの警察官としての研修を受ける。
実際の警察官として勤務しながらの実地研修。
刺激的だったわ。
私、それにのめりこんだ。
気が付いたら、十年以上。
いつしか、研修生を研修する立場になってて。
階級も上がってて。
二年前に大阪に帰ってきた。大阪城の前の府警本部。
今、部長級。刑事部の。女性としては珍しい方。
「でも、だから、って言うとごまかしになるけど、結婚に縁がなかった」
と、ヴォルガは大きく笑った。
「で、そっちは?」
そんな話の後、肝心の話。
上町ペンタゴンの事件。
たこ焼き居酒屋店主クワッチーサビラ自殺の理由。
現場がどこまで調べるか、ね。
聞いてはみるけど。
でも、期待しないでね。
それって、とってもデリケートな個人情報でしょ。
心の奥深くまで警察は掴めないし、掴めたとしても、話せるかどうか。
わかるでしょ。
もう一つ。
なんともふわふわした話だが、イオの件。
学食のおばさんねえ。
事件じゃないんでしょ。
まあ、事件になってから動いたんでは遅い、って言いたそうね。
調べてはみるけど。
最近、行方不明者、ってとても多いのよ。
ということだった。
これからは連絡を取り合おうぜ。
たまには、同窓会にも顔出せよ。
うーん。私、ああいうの、なんとなく苦手なんだな。
それに、予定とか、あってないようなものだし。
でも、できるだけ、そうする。
と約束したのだった。




