2 ここで、何かを待つ!
「じゃ、行ってくる」
案外早く、人の姿をとれる妖怪三名が集まった。
ランの親衛隊、白龍、タヌキ、カワウソ。いつものメンバー。
強硬手段を取るときのことを想定して、その他デカめの妖怪二名。
相手が親子連れなら、これで十分だ。
そこへ、ランへに連絡が入った。
人が増えています!
二人!
「なに!」
く!
ま、いい!
これ以上増えないことを祈るのみ。
「行ってくる」
「はい!」
「ん?」
「は? 早よ行こ。合戦の笛、もう三十分くらいしかないよ。早く」
「はああああ? オマエは天王山に行かないかんだろ! お館様が待ってるんだろ!」
「だって」
「オマエの総指揮で全軍が動くんだろ!」
「だって」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ! オマエのオマエの仕事をしろ!」
「でも、でも!」
「ついてくるなら、離縁だ!」
「そんなあ」
渋るランの手を振りほどき、あいだみちに入った。
すばらしく歩きやすい道。
一直線で完全舗装。
ただ、修景は何もなし。ただの薄暗闇。
ただ、それなりの距離はあるという。
白龍に跨らせてもらい、飛んだ。
口を出た。
競馬場のステーションゲート近くの歩道。
残り十五分を切っている。
気は焦る。
街の明かりは一切ない。
新月。
星明りもなく、遠い街明かりを雲が反射するのみ。
その雲に、シルエットとなって浮かぶ円盤。
確かに、人が。
ゲートの前に三人、そして車椅子。
暗闇の中、かすかな輪郭が浮かび上がる。
泣き叫ぶ女の声が聞こえてきた。
「放っといてちょうだい! もう、未来なんてないのよ!」
妖怪が全員口から出て来るのを待って、走った。
声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「人さえ殺した! お告げに従ってアサツリってやつを!」
思わず、足を緩めた。
「でも、何も変わらない! 余計悪くなっただけ!」
再び走り出した。
「もうおしまい! 私はここで最後の望みに賭ける! 邪魔しないで!」
あっ!
黄色いローブ!
ハルニナ!
ならばもう一人はメイメイか。
どうしてここに!
「五芒星の中心はここ! ここで何かが起きる! 私はここで、何かを待つ!」
ハルニナが顔を向けた。
目を見開いている。
どうしてここに、と。
「ハルニナ! メイメイ!」
「ミリッサ!」
女がこちらを向いた。
あ。
どこかで見たことのある顔。
そうだ!
下着屋の店員!
女が金切り声をあげた。
「どうしてわからないの! この子はもう、なにかにすがるしかないのよ!」
既に、説得している時間はない。
有無を言わさず、連れて行くのみ。
と、遠くから声が聞こえた。
「待って!」




