表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/309

37 みんなで一緒に帰ろー

 翌木曜日、四限の授業。ハウジングインテリア論。

 今日は、カラーコーディネート演習の初日。

 このテーマを授業初期に持ってくるのは邪道かもしれないが、考えがあってのこと。


 三年生対象。

 二年生の時から授業を受けている学生も多く、親しみも生まれているが、まだそれは脆いもの。

 最初の演習は、ちょっと楽しいものを。

 演習の形式にも慣れてもらいたい。

 女の子が興味を持ちやすい「色」がテーマ。しかも、いわば塗り絵というアトラクション付き。

 授業の終盤、学生たちはワイワイと演習に取り組み始めた。


 十五分間のスピード演習。

 お客様の前で、ささっとスケッチができるように、日ごろから速く描くことを練習しよう、と。


 演習は決められた時間内に終わること。

 これが課題の条件であるし、それが実社会に出た時にも役に立つ。

 しかし、居残ってでも仕上げたい学生がいるのは事実。

 テストではなく、日々の訓練なのである。

 納得できるまでさせてあげたい、と思っていた。



 例によって、先生~、時間短すぎ。もうちょっと待って~、もうすぐ完成するから~。

 まだこの超短時間の演習形式に慣れていない。

 居残る学生が多い。というか、ほとんどの学生が。

 慣れてくれば減っていくが、それまでは少々冷や汗をかく。

 大学当局に通報されかねない。

 難しすぎる演習を課して、帰らせてもらえない、などと。

 以前、実際にガリが様子を見に来たこともあった。

 その時は、へえ、あなたたち、残って頑張ってるのね、で済んだ。

 つまり、勉強熱心でない学生が懸命にペンを動かしているのを見て、逆に感心された。



 居残った学生たちが演習に取り組んでいる机の間を歩き回り、その場でアドバイスを与えていく。

 時には、自ら学生たちの演習用紙に書き込んでいく。

 例えば、こういう形状はどうだい、こういう構成の方がよくないかい、ほら、こうやって描くとテクスチャーが、というわけだ。

 前から横から後ろから、年頃の娘に接近するわけだから、身体に触れないよう、いらぬ方向に目がいかぬよう、気をつかう。

 胸元を押さえる学生もいるが、概して無頓着。


 もちろん、授業中の私語は禁止。

 しかし、演習ともなると、互いに見せ合ったりして会話が生まれる。

 たちまち、授業は柔らかいモードに。

 少々のことは大目に見ているが、ペンタゴン、という声が聞こえた。

 聴きなれない言葉だけに、幾人かが振り返る。


「ジン。静かにしなさい」

 ジンは四年生。この授業を受ける必要はないが、単位数収集のためだろう。

 アイボリーと一緒に受講している。

 発言の主はしおらしく謝ったが、話しかけられた方のアイボリーは少し硬い表情を見せていた。



 居残り開始後、十分経過。

「そろそろ、フィニッシュしろよ。お客さんはこんなに長い時間、待ってくれないぞ」


 学生が、一人去り、二人去り。

 残るは、ん?

 たまたまか?


 三年生のスズカ、ブルーとピンクの姉妹、ンラナーラ、ミカンの五人、そして四年生がジンとアイボリー、だけになった。


「あれ、これって、部活?」

 ジンが面白がっている。

「みんなで一緒に帰ろー」



 居残った娘たちと、一緒に下校。

 いつもというわけではない。

 稀に発生するイベント。

 プリントを出してから、教室を片付けるのを手伝ってくれたり、正門前で待ち伏せしていたり。

 親しくなれば下校予約を入れてきたりする学生もいる。

 駅までの坂道を下る間、少しだけ近づきあう貴重な時間。

 数人の団体で、ということが多いが、二人でという時もある。

 話題のほとんどは、授業内容のこと。難しすぎるだの、演習時間をもっと、とか。雑談として話したことに食いついてきたり。

 学生との距離感が一気に縮まる大切な機会。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ