37 みんなで一緒に帰ろー
翌木曜日、四限の授業。ハウジングインテリア論。
今日は、カラーコーディネート演習の初日。
このテーマを授業初期に持ってくるのは邪道かもしれないが、考えがあってのこと。
三年生対象。
二年生の時から授業を受けている学生も多く、親しみも生まれているが、まだそれは脆いもの。
最初の演習は、ちょっと楽しいものを。
演習の形式にも慣れてもらいたい。
女の子が興味を持ちやすい「色」がテーマ。しかも、いわば塗り絵というアトラクション付き。
授業の終盤、学生たちはワイワイと演習に取り組み始めた。
十五分間のスピード演習。
お客様の前で、ささっとスケッチができるように、日ごろから速く描くことを練習しよう、と。
演習は決められた時間内に終わること。
これが課題の条件であるし、それが実社会に出た時にも役に立つ。
しかし、居残ってでも仕上げたい学生がいるのは事実。
テストではなく、日々の訓練なのである。
納得できるまでさせてあげたい、と思っていた。
例によって、先生~、時間短すぎ。もうちょっと待って~、もうすぐ完成するから~。
まだこの超短時間の演習形式に慣れていない。
居残る学生が多い。というか、ほとんどの学生が。
慣れてくれば減っていくが、それまでは少々冷や汗をかく。
大学当局に通報されかねない。
難しすぎる演習を課して、帰らせてもらえない、などと。
以前、実際にガリが様子を見に来たこともあった。
その時は、へえ、あなたたち、残って頑張ってるのね、で済んだ。
つまり、勉強熱心でない学生が懸命にペンを動かしているのを見て、逆に感心された。
居残った学生たちが演習に取り組んでいる机の間を歩き回り、その場でアドバイスを与えていく。
時には、自ら学生たちの演習用紙に書き込んでいく。
例えば、こういう形状はどうだい、こういう構成の方がよくないかい、ほら、こうやって描くとテクスチャーが、というわけだ。
前から横から後ろから、年頃の娘に接近するわけだから、身体に触れないよう、いらぬ方向に目がいかぬよう、気をつかう。
胸元を押さえる学生もいるが、概して無頓着。
もちろん、授業中の私語は禁止。
しかし、演習ともなると、互いに見せ合ったりして会話が生まれる。
たちまち、授業は柔らかいモードに。
少々のことは大目に見ているが、ペンタゴン、という声が聞こえた。
聴きなれない言葉だけに、幾人かが振り返る。
「ジン。静かにしなさい」
ジンは四年生。この授業を受ける必要はないが、単位数収集のためだろう。
アイボリーと一緒に受講している。
発言の主はしおらしく謝ったが、話しかけられた方のアイボリーは少し硬い表情を見せていた。
居残り開始後、十分経過。
「そろそろ、フィニッシュしろよ。お客さんはこんなに長い時間、待ってくれないぞ」
学生が、一人去り、二人去り。
残るは、ん?
たまたまか?
三年生のスズカ、ブルーとピンクの姉妹、ンラナーラ、ミカンの五人、そして四年生がジンとアイボリー、だけになった。
「あれ、これって、部活?」
ジンが面白がっている。
「みんなで一緒に帰ろー」
居残った娘たちと、一緒に下校。
いつもというわけではない。
稀に発生するイベント。
プリントを出してから、教室を片付けるのを手伝ってくれたり、正門前で待ち伏せしていたり。
親しくなれば下校予約を入れてきたりする学生もいる。
駅までの坂道を下る間、少しだけ近づきあう貴重な時間。
数人の団体で、ということが多いが、二人でという時もある。
話題のほとんどは、授業内容のこと。難しすぎるだの、演習時間をもっと、とか。雑談として話したことに食いついてきたり。
学生との距離感が一気に縮まる大切な機会。




