34 おチンチンの馬は消し
「お、あの馬体。格好良くない? おなか、シュッとしてる」
「あれ、十三番の馬、おチンチン」
「前の馬が牝馬だからね。尻尾振ってるし」
「うわ、エッチ。でもあれって、興奮してあんまり走れない?」
「さあ、関係ないんじゃない?」
「人によったら、いやあんなのが走るっていう人もいるよ」
「でも、目のやり場に困るよねー。乙女としては」
などと騒いでいる教え子たちを眺めながら、予想を見直した。
事前に全レース分の予想は終えてある。
とはいえその予想とは、消すものは消して三分の一ほどに絞ってあるという意味だ。
候補として選んであった馬から、十三番、おチンチンの馬を消した。
さて、ランの話、続きを聞こうか。
が、ランはガリと話している。
目が合うと、二人で近寄ってきた。
「ミリッサ、話の続き、しよ」
ガリが一緒でもいいらしい。
「それで、なにかわかったのか?」
「うん。かなり荒れてた」
遠い遠い昔、もともと、あれらの巨岩は土に埋もれていたらしい。
巨岩だけではない。あの辺り一帯が。
それが、いつの時代か、あるいは最近か、覆っていた土が流され、あるいは掘削され、岩がむき出しに。
「まだ半分は埋まってるけどね」
そのせいで、あそこに込められた「気」が薄れているのではないかという。
「まあそれで、パワースポットとして脚光浴びるようになったんだな。ただの山じゃ、視覚的においしくない」
「そういう問題と違うんやけど」
「で、あの時、自殺した人がいたけど、それとは関係ないんだな?」
これははっきりさせておきたかった。
たこ焼き居酒屋店主の死にランが関係しているとは思わないが、万一、意図せず、ということもある。
「どなたか自殺? 先生のお知り合い?」
「あ、ガリさん、すみません。実はですね」
「へえ、そんな偶然って、あるものなんですね。ココミクさんね。よく覚えています」
競馬サークルをやりたいって、言い出したのは彼女。
当然、私は猛反対。この歴史ある女子大に競馬サークルなんて。
でもあの子、毎日のように私を説得に来てね。
私に決定権はないわよと言っても、まずはガリさんにご理解いただかなければ、って熱心に。
なるほど、そうだったのか。
ココミク。
確かに、できる学生だった。
ガリさんの攻略を先行するとは、頭のいい子だ。
と、また時間切れ。
第二レースの出走時刻だ。
結局、ランは第二レースの終了と同時に、ごめんなさい、用があるので、と帰っていった。
最近どうしてる、などと話したかったが、引き留めることはしない。
ランにはランの暮らしがある。仕事がある。
講師の自分が学生をいかなる形であっても束縛するわけにはいかないし、心理的に近づきすぎるなどもってのほか。




