31 会えばこれがルーチン
「間に合ったー」
と、やってきたのはミャー・ラン。
やってくるなり、金色の瞳を輝かせ、胸元に手を伸ばしてくる。
最近、会うことはぐんと減ったが、会えばこれがルーチン。
ランがくれたお守り。
肌身離さず、首から下げている。
四年生以上は誰もが知るところ。ヨウドウやガリでさえ。
ぷっくりした涙袋の下の二つほくろを少し大きくし、にこりと笑った。
「元気やった?」
「ああ」
そして、声を潜めて言った。
「最近、ミリッサのごはん、作りに行けてないね」
余計なことを平気で言うのもランならでは。
気にしてもしかたがない。
ランは今、三年生のまま留年、休学中。
もう復学する気はないのかもしれない。
それでも、競馬場での部活には、ごくまれに参加してくれる。
「どうした、その爪」
ランは、長い爪をルビーのように赤く塗っていた。
つい、口が滑った。
普段から、学生の服装や髪型や装身具、ましてや化粧を話題にすることはない。
たとえどんなに素敵であろうと、逆に、今から海水浴に行くのかというような露出度の高い格好であろうと。
褒めたら褒めたで、指摘すれば指摘したで、どう受け取られるか、分かったものではない。
毎年、契約更改時に渡される講師行動指針には、節度と見識ある紅焔生としてふさわしい服装がどうのこうの。
つまり、華美な服装の学生には注意して是正させよと書かれてあるが、いまだかつて、その指針を守ったことがない。
「いいでしょ」
慎重に言葉を選ぶ。
「まあな」
「それだけ? がっかり」
しかし、ランは、
「おはよ」
「おはよー」
と、すぐ輪の中に入っていき、無料配布のレーシングプログラムと馬たちとを見比べ始めた。
三年生はだれもランが何者か、知らない。
ハルニナやメイメイやアイボリーの素性も知らない。
あえて伝えることではない。むしろ、秘密にしておくべきこと。
ランの小さな後姿。
紫色にピンクとシルバーが混じったいわゆるフェアリーカラー。
レイヤーカットのセミロングの髪が、さらさらと肩にかかっている。
最近はいつも黒っぽい服装。
今日も黒いタイトなTシャツにスリムなパンツ。
細いけれど起伏に富んだ体つき。
ほほえましい気持ちで眺めた。
それにしても、あいつがネイル?
いったい、何を考えているんだか。




