31 他人を束縛しないがルール
「みんな早いのね」
と、次にやってきたのはガリ。
授業準備室の女性職員である。
サークル部員ではないが、何かと競馬サークルR&Hを目にかけてくれている。
大学当局の冷たい目を、ヨウドウもそうだが、ガリがいてこそ、和らげてくれている。
そして、たまにではあるが、こうして部活に顔も出してくれる。
まさか、監視のために? とは思わない。
信頼関係ができたからこそ、と思う。
授業準備室の主。
きっちりしすぎの性格、厳しい言動、歯に衣着せぬ物言い。
ガリさんに嘘は通じない、とは、自分ならずとも学生たち共通の認識。
昨年、一瞬見せてくれた優しさは、もうどこにもない。
それでもこの細面の女性に全幅の信頼を置いていた。
「あら」
と、ガリがランの隣に立った。
「久しぶりね」
「はい。ですね」
そういえば、今年に入って、ランとガリが競馬場で顔を合わせるのは今日が初めてかもしれない。
ということは、もしかして、あれ以来?
しまったかも、と思った。
ランが休学するとき、ガリさんとヨウドウには挨拶に行っておけよ、と言わなかったかも。
子ども扱いであろうと、特にランには言っておかねばと思っていたのだが。
「元気にしてる?」
「はい。ガリさんは?」
「この通り、元気よ。お仕事は? どう、順調?」
「もちろん。忙しすぎるのが、たまに傷、ですけどね」
「へえ。いいじゃない。今度、聞かせてね」
などと話している。
もうジョッキーが跨り、パドックもあと一周となっているが、二人は話に夢中。
あんなことがあった後だ。積る話もあるだろう。
馬たちが地下馬道に消えた。
ジンが、ランに依頼している。
「紹介するね。ミカンちゃん。今日から参加。ラン、悪いけど、サークルのルールとマナー、教えてあげてくれる?」
ランが視線を送ってきた。
その目は、せっかくミリッサと話ししようと思ったのに、と言っている。
いいじゃないか。教えてあげなさい。
俺とは後でゆっくり。
と、目で言ったつもりだったが、ジンが気づいたようだ。
「あ、ごめん。ミリッサと話したいよね。久しぶりなんだから。じゃ、スズカ、お願いしていい? 三年生の中で一番古株だから」
「りょーかいっと」
スズカはクリアでよく通る声で言って、じゃ、とミカンを連れて、スタンドに向かっていった。
私、も一回、聞いていい? と、ンラナーラもそのあとについていく。
ガリはガリの行きたい方へ、ハルニナはハルニナの行きたい方へ。
ブルーとピンクの姉妹も。
サークルのルールその二。
他人を束縛しない。
パドックは一緒に見るし、レースも一緒に見る。
しかし、それ以外の時間は、食事も含めてよほどのことがない限りひとり行動。
女の子同士。学年も違うし、年齢も違う。
必ずしも全員が仲が良い、というわけではない。
群れたがる子と、それをよしとしない子。
そんなことに気づいて、導入したルール。
(※ここより後ろの部分は前作ミステリー「パドックの下はパクチーがいっぱい」(Nコード:n7581lb)のネタバレになります。前作をお読みでない方は、できましたら前作からお読みください。その方がお楽しみいただけると思いますので、よろしくお願いします。)




