306 変声機 モード六
木曜部活は放課後、テニスコートわきの藤棚で。
絶対に人に聞かれるわけにはいかない。
しかも、時間無制限。
ガリやヨウドウも出席している。
ここにも集音機が仕掛けられてあるかもしれないが、致し方なし。
「俺から話す」
事の次第を語った。
多くを語る必要はもうない。
推理する必要もない。
すべてが終わったのだ。
「ミリッサ、どうしてわかったん?」
「なにが?」
「埋められてたの、イオさんだって」
「あてずっぽう」
「なにそれ!」
「浮気。こじれたんだな」
ということにしておこう。
むしろ、こっちの証拠開示の方がおもしろい。
「これを手に入れた」
昨日、アイボリーとかっぱらってきたキー・イーの変装マスク。
コアUDの最奥部、ガバナンスエリアはすでにガランとしていた。
ガードマンももういない。
「あれ、それ、エヌケイビーに似てるかも。全体的に。眉毛とか髪の毛とか、目の色とか、細部はちょっと違うけど、顔の骨格というのか、パーツレイアウトが」
「すごいな、ジンは。一瞬で見抜くとは」
「でもそれ……」
「これを被って、競馬場とか、行ってたんじゃないか。でも、顔を見てほしいんじゃない。これを被ってだな。いや、被らなくてもいいんだ。変声機がついてる。モードが九パターン。ほら」
装置を起動させて、自分の声を通してみせた。
おーい、スズカ、元気かーー。
「わおっ。全然違う声」
「女の人の声だってあるぞ。ほれ」
おーい、スズカ、元気にしてるかーー。
「へええ。これ、すごいね」
「でな、この声をキリコに聞かせた」
「うんうん」
「ばっちり、根本道場で聞いた声はこのモード六の声だって、そう断言した」
「そうかー。そういうことだったのかー。てか、それ、どこで売ってるん?」
「それは知らん。エヌケイビーの部屋で見つけた」
「あ」
「だろ?」
「ちょっと見せて」
「触るなよ。警察に渡さにゃならん」
「あ、そか。エヌケイビー……」
スズカに何をしてやれるだろう。
それを考えていた。
できることは、そう、できるだけ声を掛けてやることだけ。
彼女に罪はない。
あるとすれば、あの時、立ち入り禁止の区域に入ってきたこと。
しかしそれも、実質的な被害はない。
そして、謝ってくれてもいる。
スズカは今日も参加しているが、依然として何も言わない。
今も、スズカ、と声を掛けたつもりだが、遠く六甲山山頂付近を見ているだけ。
「ね、それで、どうして?」
「そそのかし戦法のことか?」
「そう」
「もうジンも分かってるくせに」
「んーと、でも、正しいこと、ミリッサから聞きたい。ね、みんな」
本当はこれ以上、話したいとは思わなった。
もちろん、ココミクにもヤタブーにも知らせたくはない。
守衛ライトウェイにも、ヨウドウにも。
警察にバトンを渡す、でいいのでは、と思っていた。
しかし、この期に及んであいまいな結論では、この子たちに達成感は得られない。
もうみな大人だ。
やり切ったことを感じてもらうためにも、推測も含めてすべてを話そう。
「エヌケイビーの言葉が真実だという前提で話すよ」
イオさんからはもう話を聞けないので。




